折紙くんヒーローなりたての頃(捏造)
最近また一人、ヒーロー仲間が出来た。名を折紙サイクロンくんという。擬態という能力故に前線では活動しないものの、人命救助やサポートなど立派にヒーロー業をこなしている。この間現場で初対面した。口調や姿や動きが独特で、聞けば日本文化が好きらしい。私は純粋に彼自身に興味を抱いた。どんな人物なのだろう、と。
だがしかし、タイミングが悪いのかトレーニングルームでは未だ対面したことがない。つまり私は折紙くんの素顔を知らない。
「折紙?ああ、そういや気付けばいつも居ないな」
「影が薄いっていうより主張が少ないって感じ?ネガティブっていうのかしら」
「スーツ着てるときとのギャップが激しいぞ」
他のヒーロー仲間に聞くとそのような意見が多数出てきた。折紙サイクロンことイワン・カレリンくんはどうやら内気で消極的な性格らしい。それなのに自身のヒーローとしてのキャラクターを貫き通しているなんて、なんと頑張り屋な人物なんだろうと私としては好感が持てた。早く会ってみたい。そして仲良くできればいいと思う。
ある朝、ジョンの散歩をしていると突然彼が駆け出した。引っ張られるままついていくと、ジョンが立ち止まって地面に鼻先を向けた。
「カギ…落とし物か」
何だろう、とジョンが興味津々に顔を寄せている。その頭を撫でながらそれを拾って観察した。シンプルな銀色で、キーホルダーなどの目印となるものも何も付いていない。このカギの持ち主がまだ近辺に居ないかと辺りを見回した。しかし早朝と呼ばれる時間故に人通りは少なく、それらしい人物は見当たらない。
「このカギの持ち主はわかるかい、ジョン」
ダメもとで彼にそのカギを嗅がせてみると、「ワン!」と一吠えして駆け出した。本当に嗅いでわかったのかただ駆け出しただけなのか、少々驚きつつも後に続く。先程居た位置から真っ直ぐ道路沿いを進むと前方に人の背を見つけた。
「ワンっ!」
その背に向かってジョンがもう一吠えする。ビクリと肩が跳ね、クリーム色に近いブロンドヘアが揺れた。淡いパープルの上着の背の柄が印象的である。
「そこの君、ちょっと待ってくれないか」
そう呼びかけるとその人物は躊躇いながら辺りを見回した。私は更に続けた。
「そう、君だ。突然呼び止めてしまってすまない、そしてすまない」
「………え、…あ、っわ!」
気のせいか彼と目が合った瞬間、その表情が強張ったように思えたが、それはジョンの渾身のタックルによりすぐさま崩れてしまった。見事なまでにその体躯は倒れていく。
「ああ、ジョン!落ち着きなさい!」
「う、く、るし…」
パタパタと音が鳴るほど尻尾を振って、彼の顔を舐めている。余程この男の子が気に入ったのだろうか。引き剥がすようにジョンを退かせて漸く落ち着いた。尻餅を突かせてしまった少年(いや、青年?)の前に「大丈夫かい」と手を差し伸べた。躊躇しているようで、不安げに上目で私の手を見つめている。長い前髪で見えにくいものの、やわらかい朝日に照らされて彼のバイオレットの目が光る。純粋に綺麗だと思った。
「申し訳ない、重ねて謝るよ。彼はジョンという名なんだが…君のことが大層気に入ったようだ。立てるかい?どこか打ってはいないかな」
促すように言うと彼は徐に手を伸ばした。軽く握り返して「大丈夫、です」とか細く響くテノールの声。クセなのだろうか、俯き気味なのが残念だ。綺麗な瞳が隠れてしまった。
彼の手を引き、起こしたところではっと当初の目的を思い出した。握りしめていたカギを差し出す。
「これは君のかい?」
「…あ、れ…そう、そうです!っいつの間に…」
彼はポケットを探り、落としたことを確認した上で頷いた。私が「良かった」と息を吐くとぺこりと頭を下げた。
「すみません…わざわざ、ありがとうございました」
「いやいや。私ももし君のものではなかったらとヒヤヒヤしたよ。ジョンが君を見つけてくれたんだ」
「ワンっ!」
「ありがとう、ジョンくん」
彼は白い手をジョンのゴールドの毛並みに埋めて、ふわふわと撫でた。ジョンに微笑みかけるその表情もふわふわ。そして美しかった。その微笑みを是非こちらにも向けて頂きたいものだが、初対面の人物にそんなことを頼めるほど私の精神は強靭ではない。
一通り撫できると彼は腰を上げ、「あの、本当にありがとうございました」と一度だけ私を見た。それきりどうしても目が合わず、「じゃあ…失礼、します」と告げて去ってしまった。
「素敵な人だったね、ジョン」
「ワン!」
出来るものならまた会いたい、と心の中で付け足した。
その三時間後、私はトレーニングルームにてワイルドくんに捕獲された素顔の折紙サイクロンくんと対面することになる。
(補足)折紙くんはスカイハイさんの素顔を既に知っていた(覗きとかで←)けどスカイ廃故になかなか対面できずに逃げてた設定で
ジョンさまはキューピッドだと私は思っている
20130823