トレーニングルームの片隅、ソファーに座るイワンを見た。休憩しているようだ。ぼうっと天井辺りを見つめている。いつも通りと言えばそうかもしれないけど、なんか、ちょっと寂しそうというか…落ち込んでいるようにも見える。少なくともボクにはそう見えた。
「…え、っなに…?」
近寄ってイワンの目の前にボクは立った。クセのついた前髪から覗くバイオレットの瞳が丸くなる。長い睫毛だなあ。ボクは手を伸ばしてイワンの頭を撫でた。
「ちょ…パオリン?ねえ?」
柔らかい髪の感触。ふわふわ。五秒間たっぷり撫でて、漸く手を下ろした。イワンはぐちゃぐちゃになった頭に手を添えてボクを見上げている。
「ゴメン、嫌だったかな」
「そんなことはないけど…驚いて」
「えへへ…ちょっとだけ、落ち込んでるのかなーって思って」
何か難しいこと言われるより、こうしてもらった方がボクは嬉しいから。だからイワンにもしてあげようと思ったんだ。そう伝えるとポカンとしたあと吹き出された。
「あっちょっとヒドい!」
「ああ、ゴメン…嬉しいよパオリン」
ありがと、と微笑む顔はスッキリしていて、言葉のとおり嬉しそうだった。ボクも役に立てて嬉しいよ、イワン。
20130823