「…」
「(あれ、ヒル魔さんが甘いものなんて珍しい…)」
誰かが持ってきてくれた差し入れのドーナツ。ヒル魔さんが愛用のパソコンを弄りながらその一つに手を伸ばした。甘いものはキレるほど嫌いなのかと思っていたのに、意外だ。
しかしはむ、と口に入れ二、三度咀嚼したところで動きがぴたりと止まった。何だか眉間に皺が寄ってるみたい?隣で携帯を弄っている阿含さんの肩をポンポンと叩いて呼ぶ。何故隣に座っていて何故近いかについては敢えて口には出さない。
「あ"?ンだよ」
振り向いた阿含さんに銜えたままのドーナツを向け、ヒル魔さんはちょいちょいと指を指した。その意図がわかったらしく、阿含さんは怪訝そうな顔して返答する。
「食えって?ったく、俺は残飯処理係じゃねえぞ」
しかしそう言いながらもその一端にがぶりと噛みついた。…さらっと披露してくれたけれどよく考えたら、何で直接…?他あらゆる点に絶句。何事もなかったように二人は会話し始めた。二人がいつも通り過ぎて怖い。
「…腹減ったから食ってみたがやっぱ糞甘え」
「たまに無計画で無茶するなテメーは…毎回処理してやる俺の身にもなれ」
毎回?!だからこんなにフツーなの?!
「…しょうがねえな、今回だけだぞ」
「あ"ー?」
そう言うとヒル魔さんは阿含さんに軽やかにキスをした。…ん?キス?そうだよ唇と唇がくっ付いたらそりゃあキスだよってウソぉ?!きっと僕はすごい動揺しまくった顔してるはずなんだけど、正面の二人は気にも留めていないようだ。これまた何事もなかったようにヒル魔さんはノートパソコンに向き直り、阿含さんは少しの間硬直した後「素直じゃねー」とか何とか呟いて携帯の画面をまた眺める。え、僕別に空気になってないよね?それ以前にまさかコレ夢じゃないよね?軽く現実逃避なんかしてみたけれど、もしこれが夢なら盛大にひっくり返したコーヒーがこんなに熱いわけがなかった。
この三人だけの空間ってどんなシチュエーション
20130404