『飯』


作れってか。俺は押し掛け女房かっての。


「俺がどこ住んでるか知ってるよなカス」
『ああ勿論。最近はナンパの幅を広めてちょくちょく都内に出没することもな』
「…ストーカーか」
『ケケケ、俺の情報網ナメんな』


ということで結局向かうことになってしまった。毎度毎度饒舌なこって…まあいい収穫は無かったから丁度いい暇つぶしってとこか。口頭で伝えられた根城の場所は現在地から案外近かった。思ったよりすぐに到着してしまい、呼ばれてすぐに向かうなんて完全に奴の奴隷になったような気分だと不快になる。


「来てやったぞ」
「来させてやったんだよ」


都内のそれなりに立地条件の良いアパートの一室。コロコロ根城を変えんのはいい加減やめろ、いちいち面倒だ。なんていう意見に奴が耳を貸すはずもない。俺に向かって「させてやった」なんて威勢のいい言葉を投げる人間はコイツくらいなもんだ。蛭魔は広い室内で一際目立つ黒いソファに堂々と座り、愛用のノートパソコンを膝に乗せて弄っていた。

しかし、左手のみで。


「ケケ、どうせイイ女が捕まんなかったんだろ?」
「あ"ーよくわかったな。じゃなきゃンなとこ来ねえよ」
「天才様は暇なこったあな。じゃあさっさと作りやがれ!」


何ら変わらぬ態度、仕草諸々。利き腕は白い包帯が巻かれ固定されたまま。キーを打つ速さが片手になっても大して衰えない辺り相変わらずだ。

コイツの場合普段でさえ自炊をしない。こんな状態じゃ手料理なんざ無縁だ。つまるところ、栄養バランスも糞もない。なので誰かがこういうことをしなければ今より更に酷い状態になるのは目に見えている。だからといって世話役が俺に回ってくるのはおかしな話だ。

来る途中に買ってきた食材と冷蔵庫内の確認、それと調理器具の確認をし奴の言葉通りさっさと準備に取りかかった。





「出来たから早く座れ。違えバカが、ちゃんと座れカス」
「あ?姿勢とか気にするタマかよテメー」
「この俺の手料理食うからにゃあ正しく行儀良く食べてもらわねえとなあ?」
「チッ、めんどくせ」


器を丁寧に並べながら指摘すると、蛭魔は口では悪態を吐くくせに空腹にはかなわないとでもいう風に器の中身を見つめていた。素直に「美味しそう」の一言でも言やあいいものを、他人に自分の感情をこぼすのはかなり苦手らしい。





(メモ)なんだかんだ蛭魔さんに尽くすアゴンヌを書こうとした…気がする…?

20130404

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