と、主の棘田氏








やあ、はじめまして。俺は最近主流になりつつあるタッチパネルタイプの携帯電話、名前はヤマトだ。つい先日発売された最新型で、ボディーカラーはブラックとブラウンの二色使い。サイズは大きめだがその分機能は充実している。反応スピードと頑丈さが最大の売りだ。
そして俺の主は棘田キリオ、高校三年生。スマホ使いが少々荒い男であるが、タッチパネルに慣れない手つきがかわいらしいんだ。
おっと、着信だ。発信元は大和猛。棘田氏の二つ年下の男だ。彼からの着信は多く、実は履歴の八割程度はこの男の名で占められている。余談だが、棘田氏から電話をかけることは殆どない。だが当人の性格からすれば頷ける話で、一言で言えば「素直じゃない」。今風に言えば「ツンデレ」だ。俺の予測変換にも載っている単語である。
さて。棘田氏はまだ寝ているのだけれど、声をかけなければ。
『棘田氏、起きて。大和猛から着信だ』
棘田氏は呻きながらもぞもぞと布団の中で身じろぐ。布団からぬっと腕が伸び、ぽす、ぽす、三回目で漸く俺を掴んだ。通話ボタンを押し、耳に当てる。
「んだよ…」
『その声はおはよう、かな』
「用は」
『連れないね。まだ寝ていたい?』
寝起きでわかりやすいほど不機嫌な彼の言葉はただただ短い。しかし大和は慣れているため大して気にしていない、むしろクスクスと笑い声が聞こえるくらいだ。そう訊かれた棘田氏は毛布を押しのけ、一旦俺を耳許から離して見つめてきた。頭がボサボサだ。瞼は今にも落ちてきそう。現在、午前11時46分。十二分にお寝坊さんだ。
「もういい、起きる」
『そうか』







20130326

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