高身長が齎(もたら)した大きな掌、そこからすっと伸びる長い指がプラスチックのフレームを摘んだ。綺麗に整った爪。マメな性格が隅々まで如実に現れている。



「悪いな、レンズが汚れてしまって」



パスの練習を頼んだ身としては、たとえ文句があったとしても口に出してはいけないものだ。高見がベンチに腰掛け傍らにヘルメットを置く。どれくらい練習していたっけ、と桜庭が時計を見るとかれこれ一時間程経過していた。



「すいません、練習の後にこんな個人的な練習まで…」
「いいんだ」



クリーナーでレンズを拭きながら高見は言った。彼が湛(たた)える笑みは透明で、優しい。時にはQBとしてあくどい笑みも浮かべるが、こちらの方が素であることを桜庭は知っている。この先輩には頭が上がらない。悲観的になり自暴自棄になっていた自身を相棒と言い、待っていてくれた彼は、桜庭にとって大きな存在となっていた。


高見が座るベンチへ寄り、桜庭は彼の一連の動作を何とはなしに眺めていた。辺りはすっかり暗闇に包まれており、自動車の走行音が時たま聞こえるくらいだ。グラウンドに完備されたライトが二人を照らしている。見下ろしていることにより、メガネを外した高見の顔に影がかかるのがよく見えた。いつもはメガネでわかりづらいが、伏せた瞼から伸びる睫は長い。



「高見さんはいつからメガネをかけてるんですか?」
「いつからだったかな…小六あたりかな」
「へえ。どのくらい悪いんです?」
「んー…ああ、お前の顔がぼやけて見えるくらい」



桜庭を見上げて高見は言う。







20130326

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