違うクラスのとある人物の席の真ん前を陣取り、水町は勢い良く手を合わせた。パン、とよく響く。音の具合から彼の本気の度合いが窺える(気がする)。
「筧っマジお願い!ノート見して!」
「…また居眠りしてたのか」
「ガッツリ四時間睡眠!」
しかし直ぐに調子が戻ってしまう水町は元気よく親指を立てて言った。四時間睡眠というのは夜の睡眠時間のことではない。授業中の睡眠時間、つまり一時間目から四時間目まで寝ていたということを言っているのだ。
以前筧は水町に「何しに学校来てる?」と問ったことがある。彼は目をぱちくりさせ、「アメフトして、寝て、アメフトするためだけど?」と答えた。朝練、授業、放課後練習としっかり朝昼夕の順番を揃えた上で、だ。異国の地にて一度は道を外れたものの、現在は文武両道を心がけている筧にとってそれは溜息物であった。聞けば水町は赤点常習犯だそうで、ツケが溜まってしまえば大会出場にも影響を及ぼしかねない。盲点だった、と危機感を覚えた筧は水町の世話役もする羽目になってしまったのだ。
もう何度目になったかわからないこのやりとり。筧は頭にグッときたモノを何とか抑えて、水町を見た。。
「よく寝たなあ水町、それで他に何か言うことは?」
「…スンマセンっした」
「声が小さい」
「スンマセンっした筧センセー!!」
「先生はやめろ!」
突然ボリュームを最大にする水町に筧も声を荒げた。クラスメート数人の視線が刺さる。ハア、と一息吐き、筧は机の中から青いリングノートを取り出した。
「で?何のノートだよ」
「んっと、数Tとー、理科とー、地理は自習だったから…あとは古典!」
水町が述べた教科のページを開いてはリングから外していく。集まったルーズリーフをトントンと揃えて筧はその束を差し出した。
「こんなもんだろ」
水町は大袈裟に、ガバッと筧に抱き付いた。机を挟んでいたので少し窮屈な体勢だ。
「ありがと筧っ愛してる!一生ついてくぜ!」
「いちいちうるせえ!てかこんなモンで済むならお前チョロいな」
「ヤだなあ筧センセーだけに決まってっしょ」
直情径行な彼の背を軽く叩き、筧は「はいはい」と受け流す。水町に言わせれば「お堅い」「真面目」な筧は、意外にもこういったスキンシップには慣れていた。アメリカの習慣がすっかり身に付いているのだ。だからといって、自分から挨拶の抱擁といったことなどはしないのだが。
水町は軽くあしらわれたことに少しだけ不満を抱きつつ、予鈴に合わせて去っていった。相変わらず出入り口で頭をぶつけていたので、筧は思わず一人苦笑してしまった。







20140118

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -