「陸、こっち来な」
キッドさんの家のお風呂を頂いた後、頭にタオルを被せて部屋に戻ると手招きされた。キッドさんはフローリングの床に座り込んで、コンセントにプラグを差していた。そのコードはその手にあるドライヤーに繋がっている。
「あ、いや、そんな」
「いいからいいから。あ、頭触られるの嫌?」
「…そ、じゃないですけど」
嫌も何も、いつも頭を撫でまわすのは貴方じゃないですか。とまでは言わなかった。子供扱いされるのは不満だし恥ずかしい反面少しばかり嬉しく思う自分も確実にいるわけで、まあ拒否はできないのである。
遠回しの肯定ににこりと笑ったキッドさんがもう一度、無言で手招きした。俺はむっと口をへの字にさせながらも傍へ寄った。近付くと、キッドさんが自分の目の前の空間を叩いたのでそこに座り込んだ。
カチ、とドライヤーのスイッチが入ると同時に風の音が室内に響く。髪に温かい風が当てられ、一拍後に彼の長い指が絡む。ふわふわ、ふわふわと何とも優しい手つきが気持ちいい。自分でやるとどうしても雑になるので、人にやってもらうと何だかくすぐったい。力が抜けて、キッドさんに背を預ける形となった。
「熱くない?」
「あ…はい」
「陸の髪の毛気持ちいいね。柔らかいし」
「あ、りがとうございます…?」
誉められた、それは素直に嬉しかった。けれど意識までふわふわになってしまって、どうにも締まりがない。キッドさんが背後で動いたのがわかった。
「っわ、」
「俺と同じにおいの筈なのにねえ。少し違う気がする」
あのすっと筋の通った鼻を俺の髪に埋めている。すんとにおいを嗅いでいる。俺の耳に低い声を流し込んでいる。思わず想像してしまい、ゾクゾクして堪らない。思い切り沈んでた意識が急浮上して肩が跳ねた。キッドさんがそのまま耳朶を甘噛みするから、胡座をかいたキッドさんのズボンをぎゅうと握って耐える。右耳だけ異様に熱を放っている。ドライヤーはいつの間にか止まっていた。
「終わったん…ですか」
「ん、まあね」
しかし一向に離れる気配はない。それどころか腕が腰に絡みついて離れることを許さない。抱き寄せられている、と思ったら頭がのぼせた。密着するだけでもすぐ顔に出るのは、どうにか抑えられないものか。そういった経験を今まで積むことがなかったので、こういう場面でどう対応すればいいかわからない。
「ねえ、陸は自分でしたりするの?」
キッドさんがまた耳元で話すから思わず息を呑んだ。絶対わざとだ、全く質が悪い。
「っ、するって、何をですか」
「ほら、自慰だよ」
「!…自慰、って…」
「手淫とかオナニーとも言うねえ」
「わっかりますよ言い換えなくても!………そりゃあ、しないなんて言ったらウソになるでしょ」
男同士この年頃じゃよくある話だし、自然な生理現象なのだから何もおかしいことではないのに、猛烈に恥ずかしい。この人の聞き方が悪いのだ。じわじわ追い詰めるように聞いてくるから。背後の彼はからかうでもなく「ふうん」と何とも言えない反応をした。キッドさんが何故こんな質問をしてくるのかわからなくて問い返した。
「何でそんなこと聞くんです」
「うん?ああ…ほら、俺達ってやることやってないじゃない。だから欲求不満って言うの?そういうの、あるのかなあって」
「…やることっていうのはー…」
「言わせたいの?」
「言わなくて結構です…」
やることと言ったらアレだ、アレしかない。俺とキッドさんが?うわ、恥ずかしすぎる引きこもる。そもそも男同士のやり方なんて俺は知らない。けれどそういうことを口にするということは、彼は知っているのだろうか。…そしてやりたいのだろうか。
上半身を回して後ろを向くと、目を丸くしたキッドさんとバッチリ目が合ってしまった。何だか気まずくて一度目を逸らすも、また合わせる。
「…キッドさんはそういうの、興味あるんですか」
「…そう見える?」
「え!…えぇ…と…」
試すように尋ねられ、何とも返せず言い淀んだ。はぐらかす為に聞き返すのは毎回ズルいと思う。困って眉間に皺を寄せる俺にキッドさんはふふ、と笑い出した。
「陸とならしたいね」
マトモに答えたと思ったらコレだ。俺を仕留める為に、殺し文句を突き刺してくるのだ。俺は酷い顔をして赤面するしか出来なかった。





力及ばず本番はカットしました

20140216

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