【家出する】

〜谷藤奈津の場合〜


「母さん、家出していい?」
学校から帰るなり、俺は晩御飯の支度をしている母さんに問うた。
「いいよー何日いないの?」
そして母さんは、キャベツを千切りする手を止めずに軽く答えた。
「えっ」
「家出でしょう?いいわよ〜。奈津ってば普通過ぎるくらい良い子になっちゃって。男の子なんだから無茶してみるものよ」
…そういう問題か?
「あ、でも補導はやめてね。カプセルホテルとかネットカフェは駄目よ」
「じゃあ…友達の家とか?」
「なっちゃんとこ行くの?」
「行かねぇよ!?」
「なっちゃん以外に友達いるの!?」
えっ。
「いる、っに決まって…」
…えっ、あっ、え?
あれ、俺安藤以外に友達いない?
嘘だろ。
「…」
まじかよ。
「…母さん、晩御飯なに」
「トンカツよ」
「…じゃあ、やっぱ家出ナシで」
なんだって。
ぼっちを自覚しただけかよ。
「ただいまぁ、お、奈津も帰ってたのか」
「ああ…おかえり」
優しそうに微笑む父さんが、妙に腹立たしく思えて、ふいと視線を逸らした。
思春期?八つ当たり?
まあそんなとこだろうな。
口を開けば言っちゃいけないことを口走ってしまいそうで、俺はぎゅっと唇を結ぶ。
そしてそのまま駆け上がる勢いで階段を上った。




「奈津どうかした?」
「ん〜ちょっと今傷心なのよ多分」
「なんかあったの」
「そう、聞いて!家出していいかって言い出したのよ!あの奈津が!」
「へぇ、あの奈津がか。珍しいね」
「でしょ?だから私いいよーって言ったんだけど、家出しても泊まる場所無いって気づいて、やめちゃったみたい」
「あらら」
「あの子、ちゃんと殻破れるかしら?
まだまだ雛鳥にもなれなさそうなんだけど」
「まーそのうちなんとかなるよ。子は勝手に育つって言うじゃないか」
「それもそうね!あ、言ってなかったわ。おかえりなさい、あなた。」
「うん、ただいま」






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