『マイファニーバレンタイン』
バレンタインデーの由来。
気を利かせたのかそうでないのか、はたまた女子高生からチョコが欲しいのか知らないが、
翌週の月曜日にその日を控えた週末最後の授業、世界史の教師がそんな雑談を始めた。
曰く、
西暦3世紀、時のローマ皇帝クラウディウス2世は、兵士の戦意に支障をきたすとして彼らの結婚を禁止していました。
それを哀れに思った司祭バレンティノは、密かに彼らを結婚させていたのです。
しかしいつしかそれが皇帝にばれてしまい、バレンティノは投獄され、ついには処刑されてしまいました。
やがてバレンティノは聖人として認定され、彼が処刑された2月14日は恋人たちがカードやプレゼントを贈り合う日となりました。
掻い摘んだ所、そんな話。
その話が好きな人にチョコレートを贈る愛の一大イベントとどう関係してくるのか、
続きが有ったらしいがあまりにも眠かった俺はその先を覚えていない。
それに起源がどうであれ、せっかく男にとってオイシイイベントなのだ、
楽しめればそれで良いではないか、と思う。
放課後の部活の時間に栄口に話したら1組でも同じ話をされた、と言っていた。
ネタが無いのかな、あの先生は。
栄口は俺と違って授業中寝ていなかったから、その話を最後まで憶えていた。
「バレンタインにチョコをあげるのはさ、50年位前に日本の製菓会社が企業戦略みたいな感じで売り出したのが始まりなんだって。
そう考えると何か企業に踊らされてるなあって感じがして複雑だよね」
へえ、結局バレンティノさんとはあんまり関係ないんじゃん。
でもやっぱりチョコ貰えると嬉しいよね、と話しながらランニングをしていると田島が後から猛スピードで走り寄ってきた。
「なーなー、野球部で誰が一番沢山チョコ貰えると思う!?」
俺たちの話を耳聡く聞きつけたのか、勢い余って転倒しそうになりつつも目をキラキラさせて言う。
「そーだねぇ、阿部とか?」
「花井とか」
「俺はっ!?」
「田島は義理が多そうだよなー」
「えぇー…」
「水谷も結構貰えんじゃない?」
「え、そう?栄口こそー…」
何か褒め合う様な、牽制し合う様な、変な空気になってきた。
柔軟を組んだ阿部に話を振ると、「量より質だろ」と言われた。
それはアレだ。本命チョコを貰える男の余裕というヤツだろう。
ああでも、相手が相手だからひょっとしたらあげる方なのかもしれない、とチラリと思った。
背中合わせになっている阿部の表情は俺の方からは窺い知ることは出来ないけれど、
きっとこの男の頭は彼の投手の事でいつもいっぱいなのだと思った。
「じゃあ阿部は本命以外からのチョコ貰わないの?」
訊くと、
「くれるモンは貰う」
と意外と甘党な彼らしい答え。
なんだ、やっぱり貰えれば嬉しいんじゃん。
クク、と小さく笑うと、後ろから腕を思い切り引っ張られた。
ああでも、本命以外は全部断る、ってカッコイイじゃないか。
実に男らしい。一途な恋、ってヤツだ。
帰り道、栄口と寄り道したコンビニでチョコをまとめ買いしている女の子3人組を見かけた。
アレは義理チョコだなあ多分。
だってチロルチョコ40個だ。一クラス分だもの。
あーゆー風に買ってるとこ見るとちょっとゲンメツするよな。
互いに頷き合いつつ、かしましい彼女らを横目で見ながら雑誌と500ml.ペットの入った籠を手にレジへ並ぶ。
俺の前に並んだ栄口は、店員におでんの注文をしていた。
おでんにはやっぱりもち巾着だよね。
呟くと大根だろ、とあっさり却下された。
もち巾着のロマンを解ってないなあ、栄口。
何だかんだ言いながらも結構浮かれていたのだろう、俺たちは。
バレンティノさんには悪いけど、やっぱり男子高校生にとって愛の一大イベントは特別なのだ。
話は自然と、来週の月曜日の話へ。
「阿部はさ、量より質なんだって」
「おーカッコイー」
「でも貰えるもんは貰っとくんだって」
「はは、阿部、あー見えて甘党だしね」
「でもさ、実践できたらカッコいくない?本命以外は全部断んの」
「あくまで本命を貰えたら、の話だろ?」
「…そーだけど」
おでんのカップから立ち昇る湯気で、鼻の頭とほっぺが真っ赤になってる栄口を、横目で見る。
見ているとやたらおいしそうに思えて、やっぱりいつもの肉まんじゃなくて俺もおでんにすればよかったと少し後悔した。
「大根ひとくち、ちょうだい」
「いいよ」
ん、と気軽に差し出された温もり。
この大根みたいに、貰えたらいいのに。
そう考えて、何をだろう?と首を傾げる。
(……え?)
思い至った考えに大根を危うく落としそうになって、栄口を大いに慌てさせた。
行き当たりばったりに書いたら当日になりませんでした。
UPはなんとか当日に…。
しかしこれサカミズなんだかミズサカなんだか…。
二人ともお互い自分が攻めだと思ってればいいと思います。
何を隠そうおお振り初SSでした。お粗末。
2005/02/14/フジイ
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