一
「仁王があぁなったのはお前の所為だろう!ここから出て行ってくれないか?顔を見たくない」
酷い事を言ったという自覚はあった。
でも、止まらなかったし、止める気もなかった。
仁王が事故に遭ったのは今から3日も前のことだ。
一緒に居たという丸井の娘は怪我一つなく、仁王の病室で付き添っていた。
その姿を見た瞬間、何故コイツが生きていて、仁王が眠っているのかと怒りが湧いた。
丸井の娘は俺を見てから、仁王の病室を出て行った。
「幸村さん!」
赤也の声が聞こえ、振り向けばそこには赤也だけではなく、中学から高校と部活を共にした仲間が揃っていた。
「やぁ」
「仁王は?」
「まだ目覚めてないよ」
その答えに全員が悲しげな顔をする。
それもこれもアイツの所為だった。
「文月は…」
「誰?それ」
名前も聞きたくないアイツの名前を赤也が紡ぐ。
即座にアイツの存在自体を否定した。
「精市」
「アイツの所為だよ。仁王がこんな風に寝ているのは」
「幸村くん」
「アイツがっ…」
涙が溢れた。
アイツさえいなければ…。
「アイツを恨めば、仁王は救われるかな…?」
それは間違った答え。
分かっていても、止められなかった。
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