私の終着地
※D.G長編設定

真っ黒な空から、ひらひらと落ちてくる雪に、まるで星が落ちてきたみたいだ。と柄にもなく手のひらを向けて掴んでみたが、それは溶けることなくいつまでもそこにあった。不思議な雪だなあ、とまじまじと見つめるがそれは雪ではなく、もちろん落ちてきた星でもなければ、真っ白な色をした花弁であった。私は、ああそうか。なんて妙に納得して辺りを見回した。

「すごい・・・真冬に、こんな」

目を奪う、眩しいくらいの花たち。白銀の世界に、思わずほう、と感嘆の息が漏れた。いつまでも、それは比喩とかではなく、本当にいつまでも見ていられる光景だった。

「イノセンスの力で咲いた花だ、じきに枯れる」
「わかってる。だから、目に焼き付けるの」
「・・・変なもんは見慣れてるだろ、早くしろ」

変なものって・・・。私はムードもヘタっくれもない神田にじと目を送るが、当の本人はどこ吹く風だ。全く痛くも痒くもなさそうな態度に余計に苛つくが、今はそれよりもこの光景を見ていたい。いつ死ぬのかわからないのだ。それに奇怪なものは、確かに見慣れているが綺麗なものばかりじゃない。目を覆いたくなるくらい悍ましいものや、醜いものの方がずっと多い。だから綺麗な、この胸に残る光景を焼き付けて、死ぬときに思い出すのだ。

ああ、死ぬなら、最期のときは・・・そうだなあ。
こんな綺麗な場所で死にたいなあ。

「死ぬならどこがいい?私は、前までは南ドイツの川のほとりだったけど、今は・・・ここがいいなあ」
「そんな余計なことばかり考えてるから、この様か」
「戦闘中は目の前の敵のことしか考えてないわ。安心して」

おどけるように肩を竦ませるが、冗談が通じないのもまた、この男の性質だったと思い出した。傷だらけの身体を労わるように撫ぜるが、これもまた直ぐに治るだろう。そういう能力だ。

私も、いつか朽ちる日が来るだろうか。
そんな日が来てくれるだろうか。

「そんなに名残惜しいのか」
「そうじゃないけど・・・」
「なら、行くぞ」
「・・・その手にあるのは何?」
「うるさい、早くしろ」

乱暴だけれど、差し出されていた手の中にあったのは、この辺り一面に広がっている白銀の花だ。一輪でも、その美しさは変わらず。まるで月の光りを浴びて輝いているようだった。

「くれるの?」
「くれるもなにも、その辺にあったやつだ」

そういうや否や、彼は私の髪にそっと花を差し込む。冷たい指先が髪に、耳に、頬に触れた。闇を閉じ込めたような瞳が、髪が。夜空に溶け込んでしまいそうな彼。私もそっと手を伸ばして、神田の寒さのせいか赤くなった頬や鼻に触れて、そっと微笑んだ。ほころぶ、と表現した方が正しいのかもしれない。思いがけない贈り物に、贈られ方に胸が少し高鳴ったのだ。

「うれしい」
「単純・・・」
「違うわ。こんな素敵な光景の中で、あなたに贈られて・・・それがうれしいの」
「安い女・・・」
「そんなことばっかり」

神田は照れたように私の身体を抱き寄せて、髪に顔を埋める。彼の温かい息が擽ったくて、身を捩るけれど離れることはなかった。骨も凍るような寒さの中、身を寄せ合うこの温度は心地よくて、私はやっぱり嬉しくなってしまう。すると、らしくなくもごもごと神田が何かを言う。聞こえなくて、怒られるのを覚悟で聞き返すけれど彼は怒りはしなかった。はぐらかしも、しなかった。

「今度は、ちゃんとしたの、やる」

聞き取れた言葉に、今度こそ破顔する。

「私、死ぬときは神田の腕の中がいいわ」

そう言うと、彼は苦くて怖い顔をするけれど。本当なのだから、仕方ない。

「最高の口説き文句だと思わない?」
「俺はそんなの御免だな。死ぬときは、勝手にしてくれ」

それって、目の前で死なれたら余計悲しくなるから?そう聞かなかったのは、腕の中に閉じ込める力が強くなったからで。私ももう少し、この腕の中にいたくなったからだ。


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