重ねる夜の日





おめでとう、と、口にする最初は新年の挨拶じゃない。

そうなってからもう何年経ったんだろう、と、沖田は寝転がったままふと指折り数えてみる。窓の外では除夜の鐘が鳴っているのがかすかに聞こえて、ああ年が明けたんだとぼんやり思った。そんな、ここはぬくぬくと暖かい自分の部屋のこたつの中だ。
ボリュームを小さくしたままのテレビの中ではカウントダウンが終わった直後に花火が上がり、ハッピーニューイヤーと叫んでいるのが聞こえてくる。
少しだけ首を伸ばしてその画面をちらりと見ると、沖田はまた寝転がった姿勢に戻り、腕の中を覗き込んだ。

「一くん、起きてる?」
「……ん」

斎藤はもう眠そうだ。もう大学生になったのに、出会ったころから変わらず十二時を過ぎると瞼が半分閉じ始める。小学生じゃあるまいし、――だって夜はこれからなのにさ、と、ちょっとだけ不満に思うことは最近多い。

高校を卒業して、大学生になったら自由になる時間も増えた。昔は斎藤の家族にも遠慮して早々に帰していたりしたのだけれど。今はごくたまになら、ひとり暮らしの自分の家に堂々と泊めることだってできる。こうして一緒にのんびり年越しだってできて、――でも今日に限ってこの睡魔が。

やっぱりこれが原因なのかな、と、こたつの上に並んだ缶を沖田は見やった。今日はいつもと違う銘柄で、珍しいけどビールはビールだ。
大手を振って飲める年齢になってから不思議と斎藤は好むようになって、それでも三本くらい空けたところでいつもはけろりとしてるんだけど。くてんと隣で寝転がったままの体に変わらず腕枕をしたまま、今キスしたら起きるかなとちらりと思う。真っ白で滑らかな頬が桃色に上気していておいしそうで――いやでも、ここで寝られちゃったら余計傷つくからやめやめ。

思い直して「ねえ」と、もう一度耳元で囁くと、ようやく斎藤ははっきり目を開ける。ふわりとこちらを見る顔に笑いかけた。

「十二時過ぎたよ。おめでとう」
「……ああ、明けまして」
「そうじゃなくって」

お誕生日、と、囁いて頬を寄せる。数回瞬きをして、斎藤はああ、とつぶやいた。

「……ありがとう」
「どういたしまして」

視線を逸らさぬままにっこり笑うと、斎藤の頬の赤味がほんのり増す。その肩を抱き寄せた。
柔軟剤なのか、斎藤からはきまって花のような甘い香りがする。でも脱がせたときだって変わらないからいつも不思議だ。

「ねえ、日付も変わったし、今日はなにしよっか」
「眠い」
「そうじゃなくてさ」

沖田は小さく眉を寄せる。
初詣に行くのは定番だし、プレゼントはもう買ってあるけど目当てのカフェやレストランはたいていクローズしているし、ケーキはアイスのくらいしか手に入らないのが残念で(でもこれは結構好きみたいだ)どう頑張っても雰囲気のいいお誕生日、っていうよりはなんだか実家に帰省したから家族でお祝い、みたいな感じが拭えないのがここ最近の不満ではある。
いろいろ考えても結局毎年似たような感じになってしまうし、別に悪くはないんだけど、と思いながら沖田は斎藤の髪を撫でた。もうちょっと、なにかいろいろしてあげたいのに。

「一くんさ、何かしたいこととか、欲しいものとか」
「ない」

即座にそう返ってきて、沖田は唇をとがらせる。
そこまで眠いの、と、息をつきかけたところで、するりと斎藤の腕が伸びてきた。

「このままで、いい」
「……一、くん」
「あんたがいる」

首の後ろに腕が回されて、沖田は斎藤の目を覗き込む。
そのままそっと額を当ててキスをすると、受け止めた唇がつぶやくように声をひそめてふしぎだ、と言う。

「……変わらないようで、毎年、少しずつ嬉しいことが増える」
「え、」

「今、急いで帰らなくて良いのは――幸せだ」

言って、斎藤は胸元に顔を寄せてくる。
その口元は珍しくはっきり笑みの形をしていて、なぜかこっちが照れてしまった。抵抗なんてしないとわかっている手首をゆるく捕まえる。指を絡める。見つめ合ったまま、珍しく大人しい斎藤の様子におそるおそるまた唇を重ねれば、一瞬の驚いた顔のあと、斎藤はふ、と笑った。

「どうした、……あんたらしくない」
「だってさ」
「足りない」
「……あのね」

自分の体を引き寄せる、斎藤の腕の力が強くなった。あ、と思ったその瞬間に、鼓動がばく、と跳ね上がる。心臓ごと素手で捕まえられたみたいに。
諦めに似たため息をこっそりつきながら思う。だから何をしたってあげたって、届かないって思うんだよ。年々増えていく気持ちになんて追いつかないから。

引かれるまま、体を倒して斎藤に覆いかぶさると貪るように口づける。くちゅ、と濡れた音を立てて触れ合わせた舌がやけに熱い。
きっとこれは酔ってるせいもあるんだろう。わかっているから、もう何も考えずに溺れる。

「……ん、ぅ、――っあ」

声が聴きたくて、赤みの増した唇を解放する。
珍しく襟のない服から覗く首筋はやっぱり甘い香りがして、うなじから鎖骨まで舌でたどれば溶けるような鼻にかかった声が上がった。幸せだ、と、さっきの斎藤の声を思い返しながら思う。ほんとだ。
二人きりで、部屋は暖かくて、明日も休みで。恋人が自分の名を呼ぶ声は甘くて、冬の夜はひっそり長い。

「……総、司」

肩口に顔を埋める声が囁く。あげられるものなんてあるのかな、と熱に浮かされた頭で思いながら腰骨を撫でれば、びくりと斎藤のつま先が震えた。
こたつの脚が同時に揺れて、からんと軽い音がする。ほの赤く染まった耳を誘われるまま噛みながら、あ、ビールの缶が落ちた、と、思った一瞬さえもう次の熱に飲み込まれる。「ノンアルコール」とそれに書かれていたことに、気が付くのはまた翌朝の話。









−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

斎藤お誕生日おめでとう〜なのに沖田得ではてさてと思っています!おめでとう総司!おめでとう!(逃)



back






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -