息を殺すように。
吐き出したい熱を抑え込めば、確実に内側に蓄積していく。熱く、熱く。体温が上昇していって、周りの温度すらも熱していく。

耳に流れ込む、音楽。声を乗せるのは愛しい人。一字一句、フレーズに命を吹き込んで。それが自分に向けられた想いだと思えば、ぞくりと背筋が震える。


「…っ、…はあ…」


堪えきれなくなって熱い息を吐けば、もう止まらない。吐息に混じって漏れるのは、嬌声。それが自らの耳へと届いていたならば。恐らくはまた身体の奥底に抑え込んだだろう。だか、総ての聴覚はイヤホンから絶え間無く流れる音楽が攫っており、耳を掠めることはなかった。


「あっ…んん…」


一番奥まで押し込んだ無機質なもの。男性器の形を模したそれが、ぐるぐると子宮口を撫で回す。同時に、陰核へと伸びるローターが的確に目当ての所を刺激して、たまらない。

こんなはずではなかった、と、春歌は思った。

トキヤに会えない日が続いて、寂しさが募っていった。その寂しさを何とか埋めたい。だが、遠方へのロケで多忙な彼に甘えるのは躊躇われた。メールだけでは、足りない。声が聞きたい。抱き締められたい。そんな欲求が募りに募って。
春歌は、預かった合鍵で隣の部屋を解錠した。
お邪魔します、と控え目に言って。何処か感じる後ろめたさを背負って上がり込む。真っ直ぐ向かった先は、寝室。しっかりとメイキングされ、ピンと張ったシーツへと身を投げ、布団に収まれば。感じるのは彼のにおい。自室から持ち込んだポータブルプレイヤーから流した音楽をイヤホンから、耳へと繋げば、更に彼を感じた。
そしていつからか。
指先で自らを慰め出した。軈てはそれでは物足りなくなって、思い出した。暫く前にトキヤが使った、所謂大人の玩具の存在。今までベッドサイドの引き出しに手を出したことはなかったが、情事中にトキヤがそこへ手を伸ばしているのを知っていた。だから。申し訳なさを感じつつもゆっくりとその引き出しを開けた。手前の軽いカムフラージュの奥に、行為を彷彿させるものがあった。避妊具であったり、ローションであったり。それに若干頬を染めつつ、その横の紙袋に目をやる。ああ、そういえばあの時あれは、こんな袋から出てきたと朧気な記憶が蘇った。中を覗けば確かに求めていたものだった。
そして躊躇しつつも、ぬるついた膣口へと誘って――、


「…ひっ……あっ、トキヤ、く…っ!」


今に、至る。

いつかトキヤがしてくれたように。持ち手を握って緩慢な動きを生み出す。
じゅくじゅくと泡立つ音が布団の中に充満するが、これも春歌には届かなかった。


「ぅ、ん……はぁ…っ!い、く…!ぁっ」


そして。
近付く足音もまた、届かなかったのだ。

どさりと、途端に重みを感じる。布団の上から、何かが覆い被さるような感覚。それを感じた時、春歌は最悪を思い描いて身を凍らせた。高揚していたものがさっと引いて、羞恥やら、居たたまれなさが溢れ出す。一先ず未だ機械音を鳴らすそれを体内から引き抜こうとしたところで、覆い被さる、この部屋の主の膝があられもなく広げた足の間にぴったりと寄せられて、抜く事は許されなかった。それどころかゆるゆると膝を動かしてバイブを押し込み、最奥を刺激してくる。体制も相俟って彼に貫かれているような、錯覚。


「…やっ、あぅっ…トキヤ、くん…っ」


身を捩った拍子に布団が耳にかすって右耳のイヤホンがすっかり皺の寄ったシーツへと転がる。
その後には強引に布団を剥がされて春歌の身体が露になった。上半身こそ乱れてはいないが、それに引き換え下肢は。一切の布を纏ってはいなかった。加えて中心部には妖しげな機械が震えて、絶え間無く蜜を垂らしている。ベッドサイドの引き出しを漁る際に灯したライト。消されることのなかったその明かりが淡く照らしていた。


「………」

「やだ…やだやだ…見ないで、くださ…!」


トキヤは春歌の耳からイヤホンを外して自らの耳へ。流れたのは、自分の歌声。


「……寂しかったですか?」

「!」


イヤホンを、プレイヤー本体ごとベッドサイドの棚へと乗せる。帰ってきた大きな手は、春歌の中心部へと伸びて春歌をびくりと震わせた。そんな反応もお構い無しに持ち手を握って開始する抽挿。


「こんなものまで咥えて…ああ、随分柔らかくなっていますね」

「っ、あ!やあっ…あっあっ」


トキヤの体温、声、視線。そして彼の与える予測が出来ない動き。快感から思わず瞳が濡れる。歪んだ視界で捉えたのは、口角を上げたトキヤの姿。それは徐々に近付いて。瞬きの拍子に目尻を伝った涙をぺろりと舐め上げ、目蓋に唇を落とした。
そんな優しげな仕草に心が温まるのも束の間。ガチリと聞こえた妙な音。それと同時に激しさを増したうねりと振動を伴うバイブに、爪先まで痙攣する。咽から溢れるのは、最早悲鳴に近い。子宮口目掛けて穿たれれば膣が収縮して絶頂を迎えた。だが、トキヤの手の動きは止まるでもなく、余韻に浸る時間すら与えず、快感だけを引き摺り出していく。
何度目かの絶頂の後、ずるりと引き抜かれたそれはシーツへと転がった。

春歌はトキヤの下でぐったりと四肢を投げ出し、浅い呼吸を繰り返す。無防備な身体に唇が落ち、開かれた胸元が彩られはじめた。


「ぁ、…トキヤ、くん…っ」

「…少々妬けますね。あんなにもバイブに夢中になるだなんて」


――君を一番悦ばせられるのは私でありたいものですが。

そう言って紅潮した頬に擦り寄った。





(淫乱春ちゃん編)
(嫌嫌春ちゃん編)




十万打フリーリクエスト企画/沙梨亜さん
「トキ春玩具プレイ」




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