目覚めると肌寒さを覚えた。
隣に手を伸ばせば。昨晩熱を分け合い、床を共にした愛しい存在が消えている。
寝ぼけた脳が一気に覚醒した。
ああ、そうか既に起きて朝食でも作ってくれているのだろう。そう思った。早急な所作で下肢に衣服を纏って寝台を降りる。早足でリビングへと歩を進めたレンは、そこの静けさに驚く。春歌。言葉尻を上げて彼女の名前を呼ぶ。返事は、なかった。マンションの総ての箇所を見て回る。何処にも愛しい姿はない。一気に体温の低下を感じた。胸の奥からひやりと冷たいものに侵されていく感覚が酷く不快だった。
そこで、レンは目を覚ました。
隣に目をやれば。小さく寝息を立てる愛しい彼女の姿。
(ああ、またか…)
片手で頭を抱える。
時折みる夢。春歌がいなくなってしまう夢。今が幸せすぎて、この幸せが壊れてしまうのが、怖い。だいすきなこの香りも、熱も、心も、全て。失うと思うだけで吐き気がする。
緩慢な動きで、しかし力強く。存在を確かめるように小さな身体を抱き締める。あたたかさが冷えた心を包み込んだ。
「……ん…レン、さん…?」
「…ああ、起こしちゃったか…ごめんね」
腕の中の身体がぴくりと動く。指先で目元を擦る姿を愛しく思った。
軈て細い指先はレンへと伸びて、滑らかな頬を包む。
「随分、早起きさんですね…。怖い、夢でも…見ましたか…?」
レンは目を丸くする。そしてゆっくり目を閉じて、白い首筋に擦り寄った。
「…うん。君がいなくなる、夢をみた…」
それを聞いた春歌はとろりと目元を緩ませた。ゆっくりと細腕を伸ばしレンの背中へと回す。
「そんなこと有り得ません。私は、いなくなりませんよ」
すがり付く子供のようなレンの広い背中を、春歌は慈しむように撫でた。
ResTrAiN
(これから先ずっと、君だけ)
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