>※戦国パロ
※死ネタ









「帰ったら、真っ先に婚姻の儀を交わしましょう。いい子で待っていてください」

「はいっ。あの、……気を付けて」

「…ええ。君も無理をしないこと。いいですね」


そう
約束した
はず
なのに、


「トキヤ…」

「遅かったな…一ノ瀬…」


翔と、真斗の声が、やけに遠くに感じた。周りで視線を落とし眉を下げるレン、音也、那月…。


「はる、か」


彼らには目も向けず紡ぐ、愛しい彼女の名前。咽から溢れたそれは酷く震えていた。手が、身体が。全身が、震える。がくがくと揺れた膝は軈て、地へと墜ちた。


戦が終焉を迎えた。
沢山の命が絶たれた。それは、トキヤの率いた軍にも言えることだ。共に戦った仲間が、次の日にはいなくなる。そんなことが稀ではなかった。血を見た。死体を見た。今でも思い出すだけで胃のものがせり上がりそうになる。残酷な、謂わば地獄絵図。
トキヤは、自らの掌を見やる。この手で、何人もの人を殺めた。この手で、果たして本当に彼女を幸せに出来るのだろうか。目を瞑れば鮮明に蘇る彼女の笑顔が、今は痛い。
それでも。
出来るか、ではない。幸せにする。そう、決めたのだ。
そして、共に幸せになりたいと思った。
この手の重みもしかと背負って、生きていく。彼女と。

トキヤより先に、古くからの友人が戦場を後にすることとなった。トキヤが戻るのは、彼らより一日後の予定だ。トキヤは言伝を頼んだ。「明日には戻る」と。


そして。


膝を落としたトキヤの瞳に映るのは、真っ直ぐに、春歌だけ。
膝の直ぐ傍の布団に横になり、微動だにしない、その、身体は…。
ゆっくり、白魚のような指先に手を伸ばす。感じる熱は、ない。ひやりとトキヤの指先を、軈ては心を、冷やした。


「…亡くなったんだ。日付が変わる頃に」


音也がトキヤの肩に手をやる。


「トキヤへの…言葉を春歌から、預かった」


トキヤは、顔を上げない。はらり。はらりと。落ちる雫は、魂の抜けた白い肌を伝っていった。










五人が後にした部屋には、トキヤと春歌だけが残された。
開け放したままの襖から風が舞い込み、庭先の桜の花びらを連れてくる。鼻腔を擽るのは、春のにおい。


「私を忘れて幸せになってください、だなんて…言ったのは、この口ですか」


トキヤの指先がさくら色の唇をゆっくりなぞる。


「私は、君とでないと、幸せなんて掴めません」


――知って、いるでしょう?

身をかがめて、冷たく、滑らかな頬に自らのそれを摺り寄せた。


「君と過ごした時間は、あまりにも短かった……短すぎ…ました、ね…っ」


いつもなら。触れる度に赤く熟れる肌は、白いままで。


「君を…ひとり、に、してばかりだった…私を、許して、いただけます、か…?」


仕事だ戦だと、仕方のない事とはいえ。


「もし…許、してくれると、言うならば…もう一度、君と…春歌と……」


――恋がしたいです。

次に春歌に会えたなら、その時は。
二人の時間を過ごして。
共に老いて、逝こう。

二人は最期の口づけを交わした。


程無くして。
トキヤは、春歌の後を追うかのように病死した。


――時は過ぎて。平成の世。
桜が咲き誇る卯月。早乙女学園にて。


「お探し物ですか……?」

「ええ……ちょっと……。寮の鍵を落としてしまって」


二人は、再び。






フリーリクエスト企画/P佑さん
「春ちゃん死ネタ」




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