「七海くん、」


いかにも不機嫌そうな声だった。


「はっ、はい…!」


びくりと肩を震わせて勢いよく立ち上がった春歌。髪が遅れてふわりと持ち上がった。


「先程頼んだ資料のコピー、一部足りないようですが」


男は、机に肘をついて。その先の手は、ホッチキスで束ねられたA4サイズの紙をひらりと揺らした。


「え…っす、すみません今すぐ…!」

「いえ、もういいです。…そこの君。これ、一部コピーとっていただけますか」


駆け寄ろうとした春歌を一蹴して、デスクの前を通ったこの部一番の美人に資料を手渡した。女は、丸で誘惑するかのように大人の笑みを浮かべて返事をする。
しゅん。と。音が鳴って萎むように、春歌は椅子へと沈んだ。表情も気持ちもまた、沈んでいて。それを表すように、頼りなさげに眉を下げた。


「そんなに落ち込まないで」


ぽん、と春歌の頭に温かい感触。大きな手だった。顔を上げれば隣のデスク、同期入社の一十木音也の姿があった。明るい笑顔が咲いている。


「音也、くん…」

「大丈夫だよ。トキヤ、そんなに怒ってないと思うし!仏頂面だから誤解されやすいけどね、昔っから」


慰めるようにそのまま、髪を撫でられる。音也から溢れる笑顔に内心落ち着いた。が。それと同時に。どうしよう。春歌は焦った。


「……七海くん」


ああ、やっぱり。


「今日、残ってください。話があります」













「だ、め…いれちゃ…っあ!や、あぁ…」


照明が落とされたオフィス。ブラインドの向こうでは月と、近隣ビルの灯りが仄かに光る。仕事場には似つかわしくない音がした。荒い息と、卑猥な音。ぐちゃり。粘膜が鳴く。


「何が駄目、なんですか?こんなに濡らして…。待っていたんでしょう?君は」


そう言って、誰にも見られることなくトキヤは口角を上げた。

春歌は自らのデスクに上半身を丸々預けさせられていた。抵抗するように床についた足をぱたぱたと暴れさせる。が。無意味な事だ。タイトなスカートを腰まで上げられて、下着とタイツは床へと落とされる。大きな両手に腰を抑えられて、抵抗も虚しく、ぐっと後ろから熱い熱が押し込まれた。遠慮も何にもなかった。大きくて、太くて、固い。まるで凶器だと、毎度の事ながら少し思う。一息つくと、机がぎしりと呻いた。


「仕事が出来ないのはもう何も言いませんが…他の男に尻尾を振るのは関心しませんね」

「尻尾、なんか…っ!あっあっ…動か、な…で…っ」

「…君が付き合っていることを頑なに密にしたがるものですから譲歩したというのに」

――これでは私の我慢が持ちません。

トキヤがより一層激しく腰を振れば、比例するように声が高く、大きく、甘くなる。目の前の背中に覆い被さるようにしてデスクと春歌の間に手を割り入れ、胸元のボタンを半分ほど開け放つ。ぐい、とブラウスを後ろに引いて、剥き出しになった首筋と肩。白いそれに、トキヤの咽が思わず上下する。じゅっと音を立てて貪るように。白い肌に赤い華を咲かせた。


「ああ、何なら。音也と話している時も私の事が離れないように…隣の、音也のデスクで抱いて差し上げましょうか」

「っ!い、や…です…ぁっ、やだ!」


びくりと小さな身体が震える。細腕が後ろに伸びて覆い被さる身体を押すが、そんな抵抗も虚しく。


「君の抵抗は私を煽るだけだと、覚えて置いた方がいい」

「あっ、ん…や、だ…やだやだ…一ノ瀬、さん…っ!」


華奢な上半身を抱き締めて、上体を起こさせる。トキヤの視線は隣の音也のデスクへ。繋がったまま移動へと移ろうとした時、音がした。トキヤの携帯の着信音だ。
はあ、と息を吐いて春歌の身体を今一度デスクへ。携帯を取り出すと、不満そうに眉根を寄せる。


「…タイミングのいい男ですね」


ぼそりと呟くと、通話ボタンを押した。


「音也、何か用ですか?………ああ、その件なら――」


携帯を持つ手と逆の手が春歌の腰を掴む。嫌な予感がした。それは次の瞬間には的中する。ゆっくりと律動が行われて、春歌の咽から上がる甘い声。それを抑えるように両手で必死に口を塞いだ。
聞こえてしまうかもしれない。そう思うと無意識の内に内壁が震えて、トキヤの自身を締め付けてしまった。


「…七海くんですか?いますよ。代わりましょうか」


突如、後ろから聞こえた声。春歌の涙を含んだ瞳が見開かれる。今、聞こえた言葉を疑った。聞き違いだと、最悪冗談でもいい。そう思いたかった。
彼女の意思など尋ねることもなく、トキヤは音量を最大にすると、ことり、と、春歌の右耳の側に携帯を置く。


(切らなきゃ…)


通話さえ、切ってしまえば。
口を塞いでいた手を外して携帯に伸ばした時、その手はデスクに押さえつけられた。もう片方も、同じように。後ろからは、そうはさせません、と、楽しそうな声がした。
トキヤは覆い被さるようにして首筋に吸い付いた。軈て舌は上がっていき、左耳を丹念に舐める。その間も抜き差しは行われたままだ。春歌の思考がどろどろに溶け出す。


「ぁっ…音也、くん…」

『まだ仕事してた?ごめん、ちょっと話があって…』

「切っ、て」


左耳へのトキヤの愛撫と、彼の荒い息が、腰が、理性を奪っていく。僅かに残ったそれを必死にかき集めて、懇願。


『…え?』

「電話、切って…!…っは、ぁ、」

『え…何何?どうしたの…?声、震えてるけど…調子悪い?もしかしてトキヤに何か言われた?』


スピーカーから漏れる音也の声は無論、トキヤにも届いていた。口角を上げ、快楽との狭間で苦しそうに悶える春歌を堪能する。


「イきたいですか?」


左耳にかぷりと緩く噛みついて、直接送り込む甘い低音。決して電話の向こうへは届かぬように。びくりと震えたトキヤの下の小さな身体が息を詰めると同時に、膣内がトキヤを締め上げる。それを合図に、春歌の両手を拘束する自らのそれに力を込める。決して逃げ出したりしないように。腰は焦らすような動きから、絶頂へと導かせるような動きへ。


「…やだ……っ…お願い…っん…ぁっ…早く…お、とや…くんっ!…あっあっ!や、あっ…」

『は…はる、か…?』


他の男に春歌の喘ぎを聞かせるのは酷く勿体無く感じる。が。釘を刺すと言った意味でこれは一番有効だと思った。春歌には自分がいると。自分だけが春歌を満足させられると。
歪んだ考えだと、トキヤも理解していた。


「全く…他の男の名前を呼びながら喘ぐなど、君には困ったもの、ですね…っ」


それでも。


「んぁ…やっ!あっ……そこ、だめえっ」

「ほら、誰です…君を、抱いているのは」


ここまでしてでも。縛り付けて置きたい存在。それが、七海春歌だ。


「ひ、ぁっ…っ…いち、の、せ…さっ…!一、ノ瀬さんっ!やっあっ」


艶やかなまでに口角を上げて。
ああ、此処まででいいと、思った。次の声は、電話の向こうの男に届くように。


『…っトキヤと、何を…』

「すみ、ませんね…どうやら彼女は…っ…話せる状態ではない、ようです…。またあとでにして…もらえますか」

『え、ちょっ!トキ――』

「では、また」

「ふあっ!あ、ん…はっ…あっう」


終話を伝える音が聞こえる。
箍など既に外れていた。一番の高みを目指すことしか頭にない。ただ、そうやって、獣のように…。

至極熱い夜だった。







「も、一ノ瀬さんの…ばかぁ…」

「バカとは心外ですね」

「だって…お、音也くんに…あ、あんな、の聞かれて…!」

「…あんなのって何です?」

「だから…その、」

「ん?」

「…いっ言わせないでください!」

「頑なですねえ…。まあ、いいじゃありませんか。これで君が私のものと示せましたからね。満足です」

「私は不満です!」

「何を言いますか。いつもより気持ちよさそうでしたよ。…ああ、聞かれて感じるタイプですか。次はいやらしい姿を見られても感じるか試してみますか?」

「〜〜!もう!知りません!」

「こら、待ちなさい。冗談に決まっているでしょう」

「全然冗談に聞こえませんから!…ついて来ないでください!」





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「オフィスパロ。音也に懐かれる春ちゃんにトキヤさん嫉妬。お仕置き」






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