ぱたり、ぱたりと。コンクリートに雫が落ちる。雨が、降ってきた。途端に雨足は強まる。ざあざあと周りの音を掻き消そうとするように。
暗い、暗い、曇天の空は雫を溢し続け、夜明けまで止むことはなかった。太陽が昇る時間には雲は退き、朝日が眩しい位に煌めくのだ。









監禁遊戯













バタン。
扉が音を立てて締まる。

夜だから、と。
事務所で偶然にも顔を合わせた二人は帰路を共にした。人通りの少ない道を選んで、ゆっくりゆっくり歩いて。この二人の時間を大事にするように。
そんな二人に水をさしたのは、正しく、水。空から滴るそれが、傘を持たない彼彼女らを容赦なく叩いた。
急いで帰りましょう。そう言って彼は彼女の手を引いた。

そして駆け込んだ、彼の部屋。


「ああ、ずぶ濡れですね…」


張り付く濃紺の髪を掻き上げながら、トキヤは言葉を漏らした。


「まさか雨が降るとは思いませんでした…。あ、トキヤくん、」

「何です?」

「早くお風呂に入って温まった方がいいです。風邪、引いちゃいますから…」


――思わず上がり込んでしまいましたが、私も自分の部屋、戻りますね。


ドアノブへと伸ばした手は、それに届くことはなかった。
細い腰を大きな両手が捕えると、驚く春歌を余所に彼女の両足が宙に浮き、トキヤの左肩に担がれる。目の前でばたつく足から赤い靴を脱がせ、重力に任せる。ぱたん、ぱたんと、玄関のタイルで跳ねて水が滴った。自らの靴も足の動きだけで脱ぎ去って、濡れた足でフローリングを歩く。濡れきった靴下が残す、ひとり分の足跡。


「あの…っトキヤ、くん…離して…」


トキヤは何も言わない。
やがて行き着いたのはバスルーム。
脱衣場の床に春歌を下ろし、彼女の衣服に手をかけた。


「えっ!あ、ちょっと…い、やっ」

「…嫌とは何です」

「だってこんな明るいところで…っ」

「大丈夫です。ちゃんと見てあげますから」

「そっ、それが嫌なんです…!は、ずかし…」


仕方ないですね、と息交じりに漏らしたトキヤはバスタオルを手に取り、手渡す。


「それくらいは許可してあげますから。巻いて早く来なさい」


そう言うとばさりと濡れた衣服を脱ぎ去り、それを洗濯機に投げ入れる。手早く腰にタオルを巻き付けて。浴室へと消えて行った。

此処で逃げたら、これから以上に後が怖い。バスタオルを巻けるのだから多少はと、春歌は観念したようにため息をついて重い衣服を脱ぎにかかった。











「や、あっ…!トキヤくん…っ」

「ほら、観念しなさい」


お互いの頭を洗い合って。そこまでは良かったのだ。
次は身体ですね、と言ったトキヤは口角を上げた。本能的に危険を察した春歌は両腕で自らを抱き締めて、バスタオルを抑え込む。その裾を彼の指先が捕えた。
バスチェアに腰を掛けているトキヤが、頑ななまでの春歌を見上げる。
甘い色の髪が濡れて肌に貼り付く。普段は白いその肌は、浴室の熱気と羞恥で赤みを帯びていて。思わず、無意識に彼の咽が鳴った。
ぎらりとした劣情を含んだ視線に、春歌は一歩後ずさる。その、拍子に、


「っあ…!」


ずるりと足元が滑り、後ろに大きく傾いた華奢な身体。


「っ春歌!」


宙に残された腕を咄嗟に大きな手が掴んで、あっという間の軌道修正。それどころか、今度は前に大きく傾いて。トキヤの胸へと誘われた。彼の膝の上に座り、真正面で向かい合う形になる。


「全く、君という人は…危なっかしいですね」

「すみ、ません…」


足元を取られた小さな恐怖心を埋めるように、思わず広い背中に手を回したが最後。


――もう逃げられはしない。







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