※遊郭パラレル








彼方、此方に淡く灯る光。
行き交う人々は小綺麗な人間だったり、そうではなかったり。後者の人間はただの冷やかしにすぎない。下層の世界からは考えられないほどの、ひどく華やかな街だった。

ある店の戸口。其処にいた牛太郎の男は、緩い人波の中に、ある人物の姿を捕えた。対して大きくもない目を見開いて、やがてそれを細める。


「おお、レン様!」


呼ばれた男は、この街にひけをとらない程華やかだった。風にふわりと舞う鮮やかな色の髪。端整な顔立ち。行き交う遊女が顔を赤らめ、ある者は声すらかける。それをやんわりと断って、牛太郎の前まで来て、足を止めた。


「やあ。久しぶりだね」

「お待ち致しておりました」


深々と頭を垂れて、男は挨拶をした。そして続けるように、本日は、誰を?と尋ねる。
レンは顎に手をやり、そうだな、と考え始める。

そこに、一陣の風が吹いた。

どん、と、レンの逞しい身体に何かが突っ込んできた。小さな身体。故に衝撃はあまりない。
どうやら女は、この建物から出てきたらしい。着物を召していた。化粧も、髪の装飾もすっかり取れていて、乱れた桃色がかった橙の髪が靡いた。
小さな身体が後退して、顔を上げる。潤んだ日だまりにも似た瞳が蒼眼と交わった。幼い顔立ちをした女だった。きっと随分若いのだろう。だがそれも、この街の遊女には珍しくもないことだ。
交わったのも一瞬のこと、女の背から聞こえる怒声にびくりと身体を震わせ、見せたのはひどく怯えた表情。息を詰めた女はレンの横を通り過ぎるように駆ける。が。少しもしない内に勢いよく腕を引かれ、捕まる。がくりと膝が崩れ落ちた。


「申し訳ありません!とんだご無礼を…!」


牛太郎が砂利に膝を落として謝罪を示そうとするものだから、レンは一言、構わない、と言葉を紡ぐ。そして一息置いて、


「…あの子は?」


視線は真っ直ぐに女に向いていた。そちらでは駄々をこねるように動こうとしない女を、店の遣手であろう女が頬に拳を入れた。


「何度言えば解るんだ!殺されたいか!」


激昂した遣手から物騒な声が漏れる。力なく項垂れた女は、涙を溢して啜り泣く。
そして、


「…ころ、して」


諦めたようにそう云うのだ。

牛太郎は溜め息をついた。


「いいところの御嬢さんだったらしいんですがね、家が崩れたらしく先日此処に。容姿もそこそこ優れたもので、教養もあるものですから、使い物になると思ったんですが…あの通りなもので、――床入りをひどく嫌がるんです」

「……成る程」


レンは一歩、また一歩、歩き出す。そして再び拳を振りかざす遣手の手を制した。


「レ、レン様…」


逆の手、遣手が女の腕を掴んだ手からも力が抜けて、細腕が解放される。白い腕には赤く、手の跡が残され、ひどく痛々しい。


「少し、やりすぎじゃないかな」


――大丈夫?

下に視線を向けてそう言えば、ゆっくりとした動作で顔を上げた女の日だまりと、再び交差した。
目尻と、片頬が真っ赤だった。
そんな女の手を取ろうとする。が。ぱんっ。乾いた音がする。その手を拒絶した音だ。レンの手が薄く熱を持つ。
そんな態度をとった女に、再び怒りを露にする遣手を制した。そして、彼は徐にしゃがみこみ、女と目線を合わせて、言った。


「大丈夫。怖がらないで。君が嫌がることは、何もしないよ」


微々たる変化だった。元より大きな瞳が少見開かれ、驚いたように彼を映した。
ふわり。レンが笑う。
緩慢な動きで、小さな手に触れた。若干震えはするのものの、今度は、拒否の仕草はない。ぎゅっと、優しく。包み込んだ。
軽い身体を支えて。立ち上がらせて。そのまま手を引いて牛太郎の前まで進む。


「今日はこの子にするよ」


拍子抜けしたような牛太郎の横を通り過ぎた。
そして、


「おいで」


彼はまた優しく微笑んだ。


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