「んっ…」


カーテン越の朝の日差しが、閉じた瞼を明るく照らした。段々意識が浮上してくる。

まだ眠りから覚めていない思考。ぼんやり歪む視界。そんな中寝台に手をついて起き上がろうとした。が。途端に下腹部に甘い痺れが走った。
小さな体が、今一度シーツに沈む。


「う、ぁっ…、?」


おかしい。いつもの自分ではない。

やがてゆっくりと思考も、視界も覚醒してきて。目の前に眠る愛しい人を捕えた。トキヤは左頬を枕に預けて、無防備に眠っている。


(…ああ、昨日はトキヤくんと……――!)


ぶわり。
沸き上がるように脳内を巡る昨日の情事。
顔に熱が集まっていく。


(トキヤくんのが、いっぱい…だって、あっ…舐め…!外だって…っ。あうぅ…)


密事を思い出したのは脳だけではなく、身体も。思わず下腹部がきゅんと疼く。


「…!」


先程感じた甘い痺れ。感じた違和感。
それを悟るのにそう時間はかからなかった。


(嘘…まだ、入って……!)


羞恥から布団の中を確かめる余裕はないが、確かにナカに感じる何か。いつもと様子は違えども、ソコに埋まるものはひとつしか考えられない。

トキヤの萎えた陰茎が春歌の膣内に居座っていた。


(とっ、取り敢えず抜かないと…っ)


右肘を寝台について体重を預ける。眠るトキヤの右肩に左手を添えて、少しずつ、抜いていく。


「…ぁっ、あ」


ぐちゃり。
奥では昨晩の名残が音を立てるが、入り口付近は体液が乾燥し、ぴりりと軽い痛みが走る。

腰を引く度、散々愛された身体が確実に快楽を拾っていく。内壁が擦れる感覚に思わず甘い声を漏らした。


「は、ぁっ…――、ん!」


春歌と同じように、快楽を拾ったのか、トキヤの自身がびくりと震えた。
ダイレクトに伝わる、少しずつ大きく、固く成長していく過程。


(あと、少し…)


一息ついた春歌が、ぐっ、と右肘に体重を乗せた時、


「――は、あっ…」


甘く蕩けたような低い声が彼女の耳を掠めた。
それに気付いたと同時に逞しい両腕が伸びてきて、春歌の肩と腰を抱く。一気に引き寄せ、二人の距離は、ゼロ。


「ひっ…ああ、んっ!」


必然的に彼女のナカに戻ってくる陰茎。硬度を取り戻しつつあるそれが一番奥を刺激した。


「春歌…」

「酷い、です…寝たふりだなんて…」

「おや。今起きたところ、ですよ。…君があまりにも可愛い声で鳴いているものですから」


寝起きの掠れた声が耳元で囁かれた。小さく震えた小さな身体。その反応に満足げに微笑んだトキヤは、桜色の唇を啄むように食んだ。

寝台に横になったまま向かい合い、抱き合い、繋がる二人の身体がゆっくりと小さく揺れ始める。


「っ…ぁっん」


全てを春歌の中に収め奥に当てがったまま、内部を緩慢な動きで擦り上げた。


「覚えて、いますか…?昨日のこと」

「…っ、ふ…ぁ……」

「そうやって…快楽に堪える君も、たいへん愛らしいのですが…もっと啼いて、乱れていいんですよ」

「ん…っは……、や、だ」

「どうしてです?昨日みたいに、ほら」


一度途中まで自身を抜いて、腹側の性感体を目掛けて一気に突き上げた。


「あ!、ぅ……っ恥ず、かし…」

「私しか見ていません。大丈夫です。だから、もう一度」


両手で口を塞ぎ、ふるふると首を振る。


「…トキヤくん、が、見てる…から…っ」


隙間から小さな声が漏れた。
紅潮した頬、潤んだ瞳。それをみた捕食者の瞳がぎらりと光る。

腰の動きを止めて、彼女の背中をシーツに預け、覆い被さった。
声を抑え込もうと必死な両手に唇を落とす。何度も何度も触れるキスを繰り返して、やがて。


「――!」


べろりと、手の甲を舐め上げたトキヤの赤い舌。指の間にも割り入るように丹念に舌先を忍び込ませた。


「君は本当に、私を煽るのが上手い」

「ふ……っ」


春歌の手に歯形が残らない程度の甘噛みを織り交ぜる。


「これ、外してくれますか?もう、強要しませんから…ね?」


大きな日だまり色が瞬いて、一筋の雫を溢した。


「……ほん、と?」


か細い声に彼は、ええ、と肯定の返事をする。それに安心したのかゆっくりと小さな両手が剥がれ落ちた。

満足したように口角を持ち上げた彼は、彼女に熱いキスを送る。


「んっ…いい子ですね」


去り際、額に唇を落としたトキヤは上半身を持ち上げ、徐にベッドサイドの棚に手を伸ばした。
帰ってくる頃にはある物が握られている。
春歌は訝しげにそれを見つめた。


「瓶、ですか…?」

「ああ、気になりますか」


片手で瓶を遊ばせて。
嬉しそうに微笑んだ。


「ねえ、春歌…。昨日は随分、気持ち良さそうでしたね」


びくりと小さな身体が震える。


「私が淹れた紅茶に、これを混ぜさせてもらったんですよ」


――すみません。

その謝罪は、申し訳なさそうな様子を見せない。


「それ、を?…中身は何なんですか…?」

「媚薬…言わば気持ち良くなる薬、です」


途端に大きな瞳が見開かれて、頬を染め、わなわなと震え出す。


「ひっ、酷いです……そんなの…勝手に…」

「ええ、すみません。…ですから、」


右手に収めた瓶の蓋を親指と人差し指を巧みに動かして、開ける。彼女に見せ付けるように横に揺らせば、ちゃぷん、と水音がした。


「次は、私も飲もうかと」


――それなら平等でしょう?

彼は唇を軽く舐めて。 艶やかに微笑んだ。


「いえっ…それは、平等と云いますか…そのっ……ト、トキヤくん!お仕事じゃないですか…そんなの、飲んだら…」

「おや、セックス以外の記憶は飛んでしまいましたか?…私は今日、オフです」


一ノ瀬トキヤは、かつてHAYATOとして名を馳せていた。そのため、他の卒業生よりも早く、多くの仕事を得ていた。
多忙な毎日。
そんな中で点々と与えられるオフは二人で過ごしていた。
しかしながら、今この時。
春歌は彼のオフをはじめて素直に喜ぶことが出来なかった。
決して、彼との性交が嫌いなわけではない。ひとつになれる瞬間には幸せすら感じるし、高め合って迎える絶頂にも、羞恥こそ大きく感じるが、気持ちがいい。
ただ、昨晩のようなことになると思うだけで、自らの淫らなところに困惑してしまうのだ。

戸惑う春歌をお構い無しに、トキヤは瓶に口を付け、白い喉を反らせて呷る。嚥下することはなく、液体を含んだまま、小さく抵抗する彼女に口付けた。


「んんっ…」


噎せることのないように、舌を伝わせてゆっくりと、確実に彼女に流し込む。
やがて離れた唇。溢れた少量の媚薬を拭う様に、彼女の口許に触れた。


「昨日よりも量が多いですからね…一体どうなってしまうのでしょう」


――私も、大分飲み込みましたし。


「は、ぁ…トキヤ、くん…」

「さて…一緒に気持ち良くなりましょうか」


先ずは甘く、蕩けるようなキスから。







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