「ハル、忘れ物はないか?」
「ふふっ…大丈夫ですよ」
――何だか真斗くん、お母さんみたい。
春歌は柔らかく笑った。そんな彼女の笑顔に、じわりと心に温かいものが広がる。
ただ、彼女が溢した言葉には、困ったように笑うしかない。
今日は久しぶりに真斗の仕事がオフの日だった。しかし、生憎春歌の方が、ドラマのBGMの打ち合わせという出掛け用事が入っていて。
真斗は内心、一日中共に過ごしたかったと思いつつも、黙っていた。
彼女の仕事の邪魔はしたくない。彼女もいつも、多忙な自分を待っていてくれるのだから。
「昼過ぎには戻るんだったな」
「はい。その予定です。午後からは相手の方が別のお仕事があるそうなので」
「そうか…。では、昼食を作って待っていよう」
それを聞いた春歌は、嬉しそうな顔をして、
「真斗くんの作るご飯、だいすきです!楽しみにしていますね」
花が咲くかの如く、可愛らしく笑顔を溢した。
「…!」
どきん。
いつまで経っても春歌の笑顔には胸が鳴る。
きっとこれからも。一生彼女に恋し続けるのだろうと、真斗は確信していた。
「ああ、もうこんな時間…。じゃあ、行ってきます」
「……ハル、」
彼女の髪に指先を埋めるようにして、大きな手が捕えた後頭部。
ゆっくりと優しく引き寄せて。もう片方の手を白い頬に滑らせた。
「んっ…」
触れるだけの甘いキス。
どきん。
いつまで経っても真斗のキスには胸が鳴る。
きっとこれからも。一生彼に恋をし続けると、春歌は確信していた。
「気を付けて、いってくるんだぞ」
「…はい。行ってきますね」
このまま、ずっと。
言葉で、態度で、己の全てで、
一生愛を語らおうか。
>top