完全防音のレコーディングルーム。中から錠をかけてしまえば、隔離空間。

その部屋の冷たい床に押し付けられた小さな身体は可哀想なくらいに震えていた。
大きな瞳は歪められ、瞬く度にぼろぼろと涙を落とす。止まることを知らない。


「う、ぅ…い、やぁ……ふ…」

「うるせえ。泣くな」


至極鬱陶しそうに眉根を寄せ、ガツンと、昂った性器で内壁を抉る。春歌の白い喉が反り、息を詰めた。


「砂月、くん…ぁっ!…嫌、です…やめてくださ…っ」

「嫌…?お前の大好きな那月の身体だ。拒否するのか?」


いつもの柔らかい若草色がひどく鋭く、春歌の目には映った。恐怖すら感じて、一瞬背筋が凍る。


「…っ!ちが…」

「違わない」

「ひっ!あ、ああああ!」


首筋に蜂蜜色が降ってきたかと思うと、皮膚に薄く食い込む固いもの。それが彼の歯だと気付いた瞬間、ガブリと思い切り噛みつかれた。

激痛に叫ぶ声が閉ざされた部屋に響く。


やがてゆっくり外れた痛みの原因。春歌の白い肌に真っ赤な歯形が浮かび上がる。


「…俺のことも那月だ、と言ったな。だったら、俺に対する拒否だって那月への拒否じゃないのか」

「ぁ、ん…ん、…はぁ…それ、は…」

「嫌だ、と言った。それが拒否以外の何だっていうつもりだ」


厳しかった瞳がふいに寂しそうな色を見せる。
終始穿たれる膣に震えながらもゆっくり、砂月の方に両腕を伸ばした。


「…ひぁっ、ん…こんなのは…嫌、ぁ、…なんです…」

「…セックスが、か?」


――それとも、俺が?

春歌はその両方を否定するように首を振った。そして、伸ばした両腕を砂月の首に巻き付け、ぐいと引っ張る。

対した抵抗もなく蜂蜜色が降ってきた。
先程の痛みを思い出して彼女の身体は若干の震えを見せたが、それでも、彼を抱き締める手を緩めはしない。


「私は那月くんも、砂月くんもだいすきだから。貴方が望むなら、本当はなんだってしたいし、してあげたい」

「……!」

「でも、那月くんに、ちゃんと謝りたい。それから、砂月くんと仲良くなりたい。それが、先…だと思うんです」


だから、こんなのは嫌です。

砂月の腰の動きが止まったお陰で、息が上がっているが言葉が紡げる。


「……じゃあ何で那月のキスを拒んだ?」


ぼそっと肩口で聞こえた問い。

あの時見た学園長の花火が春歌の脳裏に浮かんだ。


「デビューも…先だと思います。私は、那月くんにデビューしてもらいたいんです。だから…」

「もういい」

「…え?」

「もう、いい」


悪かった。

小さくそう呟いたのが確かに聞こえた。
次には彼の逞しい腕が背中に回り、強く抱き締められる。
赤くなった首筋に擦り寄る、吹き出物ひとつない頬。

そして、


「…ハルちゃん、ごめん。ごめんね…」


若草色が、泣いた。






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