※真春前提



呼び鈴が鳴った。

レンは読んでいた雑誌を閉じ、玄関へと足を向かわせる。
ガチャリと音を立てて、扉を開けて見れば予想外の人物。
同時にレンは、自分への用事でないことを悟った。


「やあ、レディ」

「あっ…神宮寺さん!こんにちは。あの、」

「…聖川、かい?」


春歌はビクリと小さく肩を揺らして、それから肯定の返事をした。

レンは彼女の手元を一瞥。
細い腕に大事そうに楽譜が抱かれている。
春歌はその視線に気付き、「卒業オーディションの曲の事で相談に来たんですよ」と笑顔で言った。


「今少し出てるんだ」


そう言えば一瞬寂しそうに目を伏せる。


「そう、ですか。じゃあまた後で――」

「ねえ、レディ」

「?はい」

「中で待ったらどうだい?奴も直ぐ戻ると思うから」

「でも、」


お邪魔じゃないですか?

身長差にどうしても上目遣いになる春歌。その容貌に柄にもなく鳴った鼓動を誤魔化して。
レンは彼女の手をゆっくり取って、怯えないように優しく部屋へと誘う。


「いいや、構わないさ。それに、俺も君とゆっくり話をしたいと思っていたんでね」


ゆっくりと扉が閉まる音が廊下に響いた。









担任の月宮林檎に呼ばれたため空けていた部屋に真斗は舞い戻った。


「ん…真斗、くん」


薄く開けた扉から聞き覚えのある声が自分を呼んでいて、彼は怪訝な顔をする。


「こーら、レディ。俺は聖川じゃないよ」


次に聞こえたのは、常日頃鬱陶しく思っているルームメイトの声。

途端に真斗の脳裏に嫌な図が映り込む。
手の早いレンと、彼女が二人きり。

心中穏やかでいられる筈もなく。早急に扉を開け放って、靴を脱ぎ捨てた。


「ハルっ!」


彼の目に飛び込んだのはセンターテーブルの近くで抱き合う、二人。
春歌の細腕はしかとレンの腰を捕らえ、レンの両手は春歌の華奢な肩に置かれている。

それをみた真斗は珍しく荒い足音を立て近寄り、手早く彼女を腕に収めた。
同時にレンと距離を取る。


「神宮寺…貴様、ハルに何をしている!」

「おいおい勘弁してくれよ。抱きついて来たのはレディの方だぜ?」


おー、怖っ。

呆れたように続けたレンに苛立ちつつも腕の中の愛しい恋人に目を向けるが、どうも様子がおかしい。


「ハル?」

「真斗くん…真斗くんっ」


がばりと抱きつかれ真斗の首に白い腕が回る。
あまりに唐突のことに驚いた彼は足元を取られ寝台に腰を落とす事になる。


「お、おい、ハル…!」


早乙女学園の生徒という立場、そして積極的とはお世辞にも言えない恋人同士。そのため密接したことはなかった。


「珍しく顔、真っ赤じゃないか」


レンがセンターテーブル近くの椅子に腰を下ろし、長い足を綺麗な所作で組んだ。
頬杖をつき、口元を妖しく歪めて二人を見る。

そんな彼に、真斗は叱咤した。


「ハルに何があった?ハルはお前に易々と身体を許すような婦女子ではないが」

「身体を許すって…ははっ。肩を抱いただけだって言うのに、大袈裟過ぎるね」


徐にレンはテーブルに乗っかった四角い箱からひとつ、銀紙に包まれた物を取り出した。

そして静かに続ける。


「コレだよ」


真斗は銀紙に書かれた外国語を読み上げる。
ウイスキーボンボン、と。


「まさかこんな物でそこまで酔える子がいるなんてね。驚いたよ」


銀紙を開いて中のチョコレートを口に含んだ。


ふいに聞こえた吐息。
それは真斗の腕の中からだった。


「は、あ…あつい…」


するりと首に回った手が解ける。その手は自らの胸元に向かい、覚束無い手付きで制服をほどき始めた。


「お、おい!ハル!」

「んっ…とれ、ない。……真斗くん…脱がせて?」

「な…っ!」


春歌の小さな手が真斗の手を取って、中途半端に乱れた制服から覗く白い胸元に誘った。
終始、薄く濡れた日だまり色が見つめてくるものだから、彼の鼓動はこれまでにないほど高鳴る。


「い、いい加減にしろ。そんな事出来る筈がないだろう!」


強くそう言うと、春歌は捨てられた仔猫のような目をして真斗を見る。そして、頭を横に振って示したのは、拒否と懇願。


「レディ。俺が脱がしてあげようか」

「黙れ神宮寺!」


あまりの必死さにレンは笑いを溢すと、ゆっくりと真斗と春歌がいるベッドへと近付く。
そして、距離を置いて腰を下ろした拍子に、スプリングが軋んだ。


「まあ、落ち着けよ聖川。お前が大好きな日本語にあるだろう?
据え膳喰わぬは男の恥、ってね」

楽しそうにそう言う男に、真斗は奥歯を噛む。

無言のまま春歌を抱き締める腕に力を込めるのが細められたレンの蒼眼に映る。


「…そうか、自信がないんだな?レディを悦ばせてあげられる自信が」


レンが意地悪そうに口角を上げ、焚き付けるように言った。


「…何?」


真斗の眉間に皺が深く寄る。

それを見て面白そうに笑ったレンは、彼の腕の中の春歌に目を向ける。そして「ちょっとおいで」と手招きして彼女を隣に呼んだ。


「何なら俺が教えてあげようか。女の子の悦ばせ方」


レンの大きな手が春歌の華奢な肩を押すと、簡単に倒れる。
寝台に背中を預けた彼女の両手をシーツに縫い付けて。



「…実践形式で」


艶を含んだ声色と共に微笑んだ。


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