これの続き。







どうして。
どうして。


「藍、くん…!藍くん!藍くん…っ!」


握り締めたシーツに皺が走る。嗚咽が漏れて、上手く発声出来ずにいた。目の前の光景が未だに受け入れられなくて。何度も、何度も呼んだ。けれど。答えてくれはしなかった。

彼なら。
昔は少し鬱陶しそうに。
今は目元を緩めて柔らかく。

何?、と。
答えてくれる彼は、藍くんは、何処にいったの?

すっかり皺くちゃに、そして、涙を吸い込んで染みになったシーツ。それが纏わる寝台は、簡素なものだ。病院にあるような、パイプベッド。どこもかしこも白いそれに横たわるのは、愛する人。
いつもの白い服を身に纏い、透き通るような白い肌。そこに睫毛が影を落とし、綺麗な蒼の髪は白に散る。
まるで、眠っているかのようで。

でも、そうでない事は、知っている。理解は出来ていないけれど。


「藍は、停止したよ」


そう言われた時。その冷たい言葉の中には、何処か寂しさが隠れている気がした。だから余計に、真実味が増した気がした。

ロボットに恋をするという事。ロボットが恋をするという事。
それが間違いだなんて思わなかった。今だって思っていない。
いつか私が老いた時、いつか……藍くんの寿命がきた時。別れの覚悟は自ずとしていた。
でも、こんな終わりが来るなんて、思わなかった。

『美風藍』のモデルになった人間が、帰ってきた。
彼は姿形、思考回路まで似せたロボットがいることを良しと思わなかった。だから、プロジェクトは中止。『美風藍』は廃棄となる…。


「随分前に決まってはいたんだ。君に伝えようともした。でも。…止められてたんだ。誰でもない。藍に。今、曲を作ってるから、それまで待ってほしいって。自分で伝えるからって。今までにないくらい真剣な藍に。……でも、そうか……藍は、君に伝えないまま、いったんだね……」


博士は哀しそうな声で、そう云った。

かしゃん。機械が起動する音がして、軈て流れてきたのは、音楽。私と藍くんが紡いだ、あの曲だ。涙は止まらない、でも、導かれるように顔を上げた。音楽に、詩が乗っていたからだ。藍くんが頑なに見せてくれなかった、歌詞。


――雪が……桜のよう……


静かに、静かに。歌が想いを運んできて。涙をも運んできて。


――最後は……泣かないでほしい……


……だめだよ、藍くん。
止まらないよ……涙……。


――絶対に今日を忘れないから……


お別れみたいな事、言わないで。
だってこれから、まだまだ、一緒にいたいのに、


――byebye my dear...


いたかったのに……。


「藍…くん……っ!!」





ふう、と。息を吐けば煙草の煙か、凍て付いた吐息か…いや、その両方が白く姿を現す。不意にやってきた風に白衣の裾が靡く。今日は酷く冷えるな、と、男は思った。
眼鏡の向こうの瞳は、何を映しているであろうか。逆光で見ることは叶わない。ただ、纏う雰囲気は、あまり明るいものとは思えなかった。

ラボの一室。眠りについたロボットの隣で泣きじゃくる少女の知らぬ間に、外では雪がちらつきはじめた。


「藍……泣いてるのか……?」


静寂に、静かに、溶ける。










AS発売前藍春ちゃん。題して、「こんな藍春√は嫌だ」をお送りしました。
debutをやりこまなかったことが起因して設定に大変な間違いが生じている可能性が拭えませんすみません。藍ちゃんのモデルの人って行方不明、だったよね…?
ち、違ってもこのお話は直すことは出来ないのでそのまま残りますがどうぞお許しを。
藍春√はhappy endが上手く浮かびません。公式さん、はよ幸せにしたってください。発売日休み入れました。





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