「…くそ、何で、俺が…っ!」


蘭丸の小さな文句は夜の闇に溶ける。一番近い距離、彼の背中で寝息を立てる春歌すら知る事はない。
吐く息は、白い。見上げれば、漸く見えた自分が暮らすマンション。エントランスを抜けてエレベーターに乗り込んだ。

今日は黒崎蘭丸の出演したドラマの打ち上げであった。新人ながら七海春歌も、作曲家として参加をしていた。
そこで、あろう事か未成年の春歌が隣にいた、下心丸出しの俳優に酒を飲まされてしまったのだ。酒により容易く平衡感覚をなくし、傾いた身体を支えたのは目の前の男…ではなく。その光景を目の端で捉えていた蘭丸であった。まさかそのまま女を抱えてパーティに居る訳にもいかない。挨拶は一通り済ませた。会場を後にし、タクシーを捕まええ、今に至ったという訳だ。

自分の部屋に連れて行くのは正直、躊躇った。だが、蘭丸は春歌の家を知らなかった。連れ出した手前、外に放置する訳にもいかない。
蘭丸と春歌は、社長の命で歌い手と作曲家という繋がりがあったが、それほど親しくしていた訳ではない。その距離を保っていたのは誰でもない、彼であった。然し今はどうだ。

あの隣にいた男に任せて放って置けば良かったじゃねえか。
俺には関係ねえ。

そんな事が脳内で反芻する。時折言葉にもなった。
自分でも不思議な程だった。あの瞬間。身体が、勝手に動いてしまっていたのだから。

舌打ちをひとつ溢して乱暴に扉を開け放てば、外気と大して変わらない冷気を感じた。室内だというのに、此処でも息が白い。靴を、これまた乱暴に脱ぎ捨ててフローリングを踏めば、やはり冷たかった。
一番奥の部屋の扉は開けたままで、そこにある寝台は朝起きたままの状態だった。寝台の上に、これまた無造作に置かれた寝巻を片手で床に落として、背中で眠る春歌をゆっくりと下ろす。横になった春歌の顔を覗き込んで、何処か安堵する。起こしてはいないようだ。

――はっとする。
何故こんなに気を掛けているのかいるのか。

自分自身に不服を申し立てるように眉を歪めた。


ChangE
(変わっていく。俺の中の何かが、確実に)




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