case:1 side SYO
「……あれ?」
疑問が早々声となった。俺の視線はすっかりそれに奪われる。コイツにはどうにも似つかわしくない。そう、思った。
声は決して小さいものにはならなかった。…元より大きい方だし。
声と視線に現れた疑問を容易く読み取ってレンは不気味なくらい柔らかく笑った。いつもの飄々と挑戦的だとか艶やかだとか、そういった笑みとは全く別なそれ。その笑顔の向こうにある意味を俺は、知ってる。
「これかい?」
携帯電話をひょいと持ち上げれば、ぶら下がるストラップがきらりと光りながら揺れた。
「どう?ハニーにぴったりだと思わない?」
きらきらと光るビーズが並ぶそれは決して下品な光は放たない。可愛らしいそれは確かに春歌にはぴったりだと頷く。だけど、
「…だったら何でお前がそれ、付けてんだよ」
当然の疑問が湧く。似合う彼女の手元にあるべきだ。
思わず眉間に皺を寄せ、呆れた俺とレンは、実に対称的だ。レンから笑顔は離れない。春歌のこととなると、これだ。
「ハニーには勿論プレゼントしたさ。これは、俺の分。…お揃いにしたくてね」
…成る程、納得した。
レンはストラップを眺めながら機嫌のいい様子で鼻歌を唄いはじめる。
学園にいた頃のコイツからは考えられない。こんなにも一人の女に夢中だなんて。俺以外で二人を知る同期はみんな、そう思っているだろう。
刹那。
携帯が光って。それを両目でしっかり捉えたレンが、バイブレーションと共に音が鳴り出す前に通話ボタンを押して耳に携帯を当てた。
「もしもしハニー?どうかした?……うん、こっちは大丈夫。……え、今日?……」
どろっどろに甘いトーンで話し出すレン。何よりあの相手を確認しない出方…あれ、春歌専用携帯か…。
呆れつつも、まあ、幸せそうで何より。
俺はレンを一瞥してからその場を後にした。
case2 side TOKIYA
「……おや、」
珍しい事もあるものですね。そう、思った。
買い物に出て、街で見かけたのは見知った男。軽い変装はしているものの、違える事はない。同じ事務所で同期のレン。そしてその隣に在るのは。レンの彼女の七海くん。まだ準所属とはいえ、アイドルが恋仲の女性と肩を並べて歩くとは関心に値しませんが、何というか、応援したくなる二人ではあります。
兎も角。会うのも久しぶりだったので一声掛けようかと思いましたが、声が咽から溢れない。それは二人の…いえ、レンの様子に気付いての事。
隣会う二人の間にある、右手と左手。大きな右手が何度も、小さな左手に近付いては、引っ込む。
直ぐに察した。手を、握ろうとしているのだと。しかしあの様。学園で数多の女子の肩を抱いてきた男とはまるで別人、ですね。
「…愛の伝道師、でしたっけ」
呟いた一言は街の雑音に溶けて、誰に届くこともない。くすりと吐息に混じった笑みが溢れた。
「……で、結局手は繋いだんですか?」
次に仕事で顔を合わせた際、しれっと聞いてみれば、
「えっ…!な、何の話だいイッチー?」
これまでに見たこともないほど焦った様子でした。
十万打フリーリクエスト/山吹さん
「周りのメンバーからみたレンと春歌の変化」
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