曇天の空が広がっていた。その色は、重い。先程仰ぎ見た時よりも暗く、黒くて。春歌はその向こうの青空を恋しく思った。軈て。黒い雲から滴がひとつ、ふたつ。雨足は一気に強まりけたたましい音を立てて地を、窓を打った。唸りをあげる空。描かれる閃光。春歌はそれから逃れるように寝台の上で布団にくるまっていた。光を見ることからは免れよう。しかし音だけは、布団も、耳を押さえる両手をもすり抜けて春歌を震わせた。
刹那。ふっと軽くなる。目蓋を持ち上げれば布団が捲れて外の世界が露になっていて。何より正面に居たのは、


「真っ昼間にこんなところで、どうしたの?」

「れ、じ…さ…っ」


寿嶺二だった。

この日仕事を終えた嶺二は久しぶりに春歌の部屋を訪ねた。インターホンを鳴らしても返事はなかった。この雨音と雷鳴では聞こえなくてもおかしくはない。会いたい衝動から不意に触れたドアノブ。扉が開いた時は不用心だと眉を寄せたものだ。


「…もしかして、雷、怖い?」


ベッドの端に腰を降ろす。そして涙を含んだ瞳を覗き込むようにしながら発した言葉の尻は消される。どーん、と一際響いた雷の所為だ。その音に、肩を揺らした春歌は目の前の胸へと咄嗟に飛び込んだ。嶺二は驚いたように声を漏らしながらも勢いのついた小さな身体を受け止める。


「あらら。随分震えちゃってるねえ」


丸まる震えた背中を小さく叩くようにあやしてやった。が。小さな身体は更に小さく萎縮したままだ。


「雷の何が怖いのかな?音?光?」

「……両方、です…っ」

「…そっか。じゃあ、」


ゆっくりと嶺二の身体が前に傾く。必然的に春歌の身体はこれまたゆっくり傾いて、軈てはシーツへと沈んだ。目を見開いて不思議そうに瞬きをする春歌に、それこそ吐息が触れる距離まで近付く。


「僕の声だけ聞いて。僕だけを見て」


――そしたら、怖くなくなるよね、春歌ちゃん?

眼前いっぱいに広がる嶺二の整った顔。そんな春歌の視界の端で稲妻が走ったが、肩が跳ねることはなかった。




MagiC
(僕が君だけにかける魔法!)


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