たん。たん。たん。
足の裏が床を叩く。二人分の重みで、僅かながらフローリングが軋んだ気がした。階段に差し掛かり、登りはじめても乱れることはないそのリズム。そんな中。仕切りに、下ろしてください、と喚くのは砂月の肩に担がれた春歌であった。足を目の前の大きな背中を痛みを感じない程度に叩いてみても、知らん顔。更に抵抗して足をばたつかせれば、俵担ぎするのとは逆の手、左手で両足を抑え込まれて無駄に終わる。それが解放され、下ろされた時にはベッドの上。きしりとスプリングが鳴く。砂月は少々手荒に春歌の背をシーツに預けさせ、布団を掛けた。


「砂月、くん…あの、」

「駄目だ。寝ろ」


私、まだ起きていたいです。そう言葉にする前に制される。


「でも、」

「でも、じゃねえ。言っただろ、俺が居なくてもちゃんと睡眠は取れ、と」


すっ、と伸びた砂月の親指が春歌の目の下を優しくなぞる。そんなことで隈は消えてくれやしないけれど。

春歌よりも先に作曲家として花開いた砂月は、仕事も順調に入るようになっていた。今回も大きな仕事であった。砂月が春歌を訪ねるのは五日ぶりになる。


「でも、私、頑張らないと、いけないんです…」


砂月と近しい距離になって。感じるのは大きな愛しさ。そして、大きな焦燥。作曲家としてどんどん前に進んでいく砂月に嫉妬すら感じてしまう自分が酷く醜く見えて仕方がなかった。だから。早く。笑顔で彼の隣にいる自分に、なりたかった。そして何より――。

春歌の表情から何かを悟ったのであろうか。砂月はその大きな手で春色の髪を撫でた。


「焦って無理したところで良いものなんて出来やしない。そうだろ?」

「……」

「…お前はお前のペースでいいから。俺は置いて行ったりしない」


春歌の目蓋に降ってきた唇はあたたかくて、優しかった。




WaTch
(少し前で見守って、時に手を引いてやれたらと)



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