「んー、やっぱ捨てがたいわねえ…」


服を持たされてカーテンの向こうに押し込まれる。促されるままに衣服に袖を通してカーテンを開けば、目をキラキラ輝かせて自分を眺める目の前の人物に胸が鳴った。

都内の某ブティック。知識がなくとも判るくらいに漂う高級感に背筋が思わずぴん、と伸びる。嬉々とした林檎に手を引かれて足を踏み入れてしまったが、どうにも場違いではないかと春歌は妙に落ち着かなかった。店員と少しの話の後に春歌へと向き直った林檎は、見繕って服を数着持たせてフィッティングルームへと押し込む。の。繰り返し。


「うん、これも頂くわ!」


ぱん、と両手を軽く、一度叩いて店員に笑顔でそう言った。そんな林檎の服の裾を掴んで春歌は狼狽える。


「あ、ああああの…っ」

「なぁに?」

「申し訳ないです…こんなに沢山…」


値段にも驚くが林檎が春歌に贈ろうとするその服の量にも驚く。


「あら、いいのよ。…それにこれはアタシの楽しみでもあるしね」

「え…?」


小首を傾げてきょとんとする。そんな春歌を見て林檎は口元に笑みを浮かべる。


「可愛い可愛いハルちゃんを更に可愛くするのはアタシの役目であり、楽しみなのよ」

「でも…」

「前にも言ったけど、アタシがそうしたいから、アタシの我が儘」


ね?、と、微笑まれて胸がきゅうと締め付けられた。春歌は少し熱くなった頬を両手で包むようにしながらお礼を述べる。それに何より、と。普段のアイドルとしての笑顔とはまるで違う悪戯な笑みを浮かべて林檎は少し、屈む。春歌の耳元に唇を寄せて、


「君からこれを脱がすのも俺の楽しみな訳だし?」


吐息に乗せて、いつもとかけ離れた低音でそう囁かれれば、堪らない。春歌の表情を見て満足げに目元を緩めた林檎は楽しげな足取りで会計へと向かった。






WhiSPer
(頬を真っ赤に染める君がただ、愛おしくて)




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