夢小説 | ナノ
あの夏からの日記



!どんな勘ちゃんでも許せる方向け。


7月○日
毎日暑い。地球温暖化っていうけど、ホントヤバいとこまで来てると思う。コレ。
ヤバいといえば、勘ちゃんのアイスだ。
毎日毎日暑いからって、アイスやらかき氷やらを満喫しすぎだと思う。なのに太らないのが羨ましすぎる。腹が立ってほっぺをひっぱったらおもちのように伸びた。なのに、笑って「あーん」ってしてくれるところが何ていう…ずるい。
 勘ちゃんは本当に優しい。昔からずっと優しい。もうすぐ夏休みだ。今年の夏休みこそ、幼なじみのカンケイにバイバイしたい。


7月△日(たぶん)
 まだ頭が混乱している。筆で日記を書くことには慣れないけれど、気持ちを落ち着かせるためにも日記を書くことにする。たぶん勘ちゃんしか読めないしね。
 数日前のこと。私は確かに勘ちゃんと一緒にプールに行ったはずなのに、目を覚ますと見慣れない天井と、心配そうな顔をした、そして見たことない変な服を着た勘ちゃんが枕もとに座っていた。私はといえば、ベッドじゃなくて布団で寝ていて、持っていないはずの白い浴衣みたいなのを着ていた。
 「熱が高かったから心配したよ」と勘ちゃんは言ったけれど、私はそんな覚えはないし、プールで溺れたのかとでも思って「プールはどうしたの?」って訊いたら勘ちゃんは、すごくびっくりした顔をした。
 それからは、もう驚きの連続!
 まず、今居る場所は平成じゃなくて室町時代ってこと。ここは、忍者になる子供たちの学校、忍術学園ってこと。この時代にも「私」が居て「私」も、くの一のたまご、くのたまとして学園に通っていたこと。数日前から高熱を出して寝込んでいたこと。
 何でこんなに沢山のことが分かったかというと、これもびっくり。勘ちゃんが教えてくれたから。
 勘ちゃんは産まれた時から、平成の勘ちゃんとしての記憶があって、そして私たちはこの時代でも幼なじみなんだって。
 夢かと思って何日か過ごしてみたけれど、やっぱり夢は覚めない。現実だ。
 こんな時でも勘ちゃんは優しい。右も左も分からないこの状況で、勘ちゃんだけが頼りだ。
 まだ書きたいことは、たくさんあるけど、それは明日に回す。


7月×日
 元の世界でもそうだったけれど、忍術学園でも、もうすぐ夏休みを迎えるみたい。まだ病人扱いされていて、休みに入るまでの数日間の授業を免除されるのは正直うれしい。
 勘ちゃんとは今まで以上に色んな話をするようになった。好きだったアイスの話とか、一緒に観た映画の話とか。ここでの生活の話もする。驚いたことに平成でも見た顔が、この学園にはちらほら居るのだけれど、みんな記憶は無いみたい。
 そんな中で、平成と室町の両方の記憶を持っている勘ちゃん。私だって、平成の記憶しかないのに寂しくないのかな。そんな私の考えなんかお見通しだったみたい。「幸が居るから寂しくないよ」って勘ちゃんは言ってくれた。私にも室町の記憶があればいいのに。


7月■日
 今日は調子がいい。初めてくのたまのピンクの制服に袖を通してみることにした。我ながら似合っていると思う。
 勘ちゃんに見て欲しくて、学園の中をぶらぶらしていたら、都合良く勘ちゃんに会えた。嬉しくて、調子にのって廊下の向こう側から「勘ちゃーん!」って呼んだら、怒られた。勘ちゃんは、あっちでも友達の鉢屋くんと一緒に居た。何だかしらないけれど、鉢屋くんに「ふーん、上手くいってるみたいじゃないか」って言われた。勘ちゃんは「見ないでよ!幸が減るでしょ!」って言ってたけど減らないよ。でも、何だか嬉しい。
 夜に勘ちゃんが忍者らしく部屋に忍び込んで来て、ここには落とし穴とか罠もあるから、ほいほい出歩いちゃダメだと言われた。さすが忍者!


7月▽日
 夕方ごろから雨が降る。夕立かな?と思ったけれど、夜中になっても、しとしとと雨は降り続いた。湿気がうっとおしい。
 今日は勘ちゃんに会えずに寂しいな、と思いながら寝る準備をしていた時だった。
 突然、天井から黒いカタマリが降ってきたと思った次の瞬間には、痛いほどに強く抱きしめられていた。
 勘ちゃんだ。
 いつもの制服とは違って、黒い忍装束を身に纏った勘ちゃんは、私を抱きしめながら小刻みに震えていた。鉄の匂いがした。
 「幸、幸、消えないでよ」と勘ちゃんは言う。私は消えないよ。消えたくない。


7月●日
 ずっと訊きたくて、でも訊けなかったことを聴いた。平成の記憶を持っているという勘ちゃん。なら、平成の私があのプールの後どうなったか知っているはずだ。
 本当に困った顔をして勘ちゃんは教えてくれた。
 あの日、一緒に行ったプールで私は行方不明になり、ついに見つからなかったこと。勘ちゃんも必死でさがしたけれど家では死んだことにされてしまったということ。
 ああ、私はもう、お父さんとお母さんに会えないんだ。
 室町にも私の両親は居るらしいが、顔も見たことのない人をとても両親だとは思えない。
 泣く私を、勘ちゃんは抱きしめて「幸、俺がずっと側に居るよ」と言ってくれた。勘ちゃんはどうしてそんなに優しいんだろう。私は私を上書きしてしまったというのに。
 「どっちの幸も、俺にとっては本物の幸だよ」頭を撫でてくれる手のあったかさは、あの頃と変わりない。
 やっぱり私は勘ちゃんが好き。勘ちゃん無しでは生きていけない。


7月▼日
 明日から夏季休暇に入るらしい。忍たまの上級生の中には、休暇中も学園に残る人が居るみたいだけれど、私はどうしたらいいのだろうと思っていたら、真剣な顔をした勘ちゃんが部屋に来た。
 いつもは部屋に来たら、まずお菓子を食べるのに変なのと思っていたら、勘ちゃんは突然「幸、結婚しようよ」と言い出した。
 冗談はやめてよ、とおどけて言ってみたら冗談じゃないよ、と綺麗な細工のしてある簪を見せてくれた。それを器用に私の髪に挿してくれる。
 「本当は幸、夏休み中に見合いをする予定だったんだ」勘ちゃんは教えてくれた。室町の私のお母さんが進めているお見合いで、それが決まればすぐにでも結婚させられてしまうらしい。
 それが私への同情なら勘ちゃんも辛くなる、そう言ったのだけれど勘ちゃんは私を抱きしめてくれた。
 「幸のことが好きじゃなきゃこんなこと言わないよ。もう俺の前から消えないで、ずっと側に居て欲しいんだ」
 もちろん私の答えは「はい」しかあり得ない。だって私の世界は勘ちゃんなのだから。そう伝えると、勘ちゃんは笑って「俺の世界も幸だよ」と言って、優しいキスをくれた。


7月◆日
 勘ちゃんと一緒に私たちの故郷(?)の村へ帰った。帰ったと言っても一度も見たことがないから実感が無い。そして一度も顔を見たことのない両親も、両親とは思えなかった。
 勘ちゃんは帰るなり、私の両親に頭を下げて「お見合いの話がある事は、存じております。失礼を承知で申し上げますが、お嬢さんを私に頂きたい」と言ってくれた。すごく格好良かった!
 お母さんは不満があったみたいだけれど、意外にもお父さんは乗り気で「家のために祝言を上げるよりも、想い想われの仲で結ばれた方が幸も幸せになれるだろう」と結婚を許してくれた。親とは思えないだなんて、失礼だったかな。
 私たちは、この夏季休暇中に仮の祝言っていうのを挙げる。もう一年、学園に通って、その後、正式に結婚するのだ。
 「村や町で暮らすのが辛いなら、どこか山の中に二人きりで暮らすのもいいよ。俺は幸が一緒なら、本当に幸せなんだから」
 私も勘ちゃんと一緒に居られて、本当に幸せ。平成に残してきた家族には申し訳ないけれど、この時代で勘ちゃんと結ばれることが恩返しだと思う。

 この日記はこれでおしまい。
これからの勘ちゃんとの日々は、心の中に綴っていこうと思う。


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