夢小説 | ナノ
浪漫と毛糸の関係性について


皆さま、この時期流行するものをご存知だろうか。
伊作あたりなら、インフルエンザ!と言うだろう。しかし、そんな月並みな答えは求められていないのである。

では、私がお答えしましょう。そう、今、我がクラスで流行しているのは編み物なのだ!編み物なう!(どどーん)

とか格好良く言ってみても、アレだ。ある日、クラスの女子が、ちっちゃい布バックとかに編み棒と毛糸入れてきて、休み時間に編み出したりして、そうするとさ、周りの子たちが「えー、すごいね」「なに編んでるの?」わいわいきゃいきゃい。そして次の日から、その席を中心に女子から女子へと感染するのだ。編み物恐るべし。

ところで、アクリルたわしってすごいよね。あのガンコなティーカップの茶渋もみるみる落ちる…!そう、私も、もれなく編み物にはまっている。みんなのようにマフラーとかセーターとか棒編みは、ちょっと難しい。その点カギ編みは、少し簡単だから、家で鬼のようにアクリルたわしばっかり編んでいたら、母親に「もうたわしは要らない」とか言われて、誰かに押し付けるべく学校でも、たわしを編んでいる次第なのである、まる。

ちなみに、今編んでいるのは、水色と白の毛糸を交互に細編みでマフラーみたいに編んでいって、最後に丸くすると飴ちゃんみたいな、たわしになるヤツだ。

「な、それいつ編み終わるんだ」
「んー、もうすぐかな」

そんなたわしの完成を今か今かと待ちわびているのが、私の彼氏の小平太だ。
私の前の席の田中くんの椅子に勝手に後ろ向きに腰掛けて、椅子をがったがった揺らしながら(ごめんよ、田中くん)手元を覗き込んでくる。

「幸はすごいな!他の女子はもっと時間がかかるって言ってるぞ」
「いや、これ簡単だから時間かからないし」

小平太は目をキラキラさせながら毛糸を見る。そんなに、たわしが好きなのか。

「すげーなー、すげーなー」
「何、小平太、欲しいの?」

あまりにも、すげーすげー言われるので聞いてみたら、元気よく「うん!」と応えが返って来た。そうか、七松家のたわしの事情はそんなに逼迫してるのか。おばさんのために、もっと編もうかな。

「じゃあ、ちょっと待ってね。もうすぐできるから」
「!うん」

あとは、ここを巻きかがって…。

「できた!はい、小平太」
「…幸、これは何だ」
「何って、たわし。アクリルたわしだけど」

ちょっぴり棒キャンディーに似てて、らぶりー☆

「たわし…そうか…たわしか…」

その時の小平太の表情を何と表現したらいいのだろう。犬がドッグフードだと思って食べたら、キャットフードだった的な。ともかく、小平太は、まんまるな目に若干涙をにじまして「いけいけどんどーん」と教室から出て行ってしまった。

「ちょっと、小平太?」
「真砂…」

クラス中の男子の、若干冷たい視線が突き刺さる。え、コレなんですか。

「お前、いたいけな男子の男の浪漫を壊しやがって!」
「え、隣りのクラスからわざわざ何よ食満」
「いくら小平太が小平太だからと言って可哀そうだろ」

そーだ、そーだ!
たまたま、うちの教室に遊びに来ていた食満から怒られると、クラス中の男子からバッシングを浴びてしまった。え、私悪いのか。

「お前なぁ、彼女が編んでくれるものと言ったら、セーター、マフラー、手袋だろ。それを、たわしって…」
「あー…そういうの、難しくて編めない。その前に小平太セーターもマフラーも手袋も着けないし」

基本小平太は、年中制服のシャツ一枚だ。たまに鬼のかく乱起こして、風邪引いてこっちが頼んでもコートもブレザーも着てこないし。

「お前、男の浪漫が分かってないな…」
「えー、たわし…役に立つよ。中在家なら分かってくれるよねぇ」

ねぇ、と今まで沈黙を決め込んでいた中在家を振りかえると、恐ろしい程の笑顔だった。おおおお怒ってらっしゃる?

無言で差し出されたのは、一冊の本だった。

『かぎ針で編む、素敵な編み物』

男子のバッシングに私は逆らえなかった。
男子というより、中在家の無言の圧力に。そして、女子が今まで編んでいたものをそそくさとしまうのも見逃さなかったのである。





翌朝、大変私は眠かった。まぶたとまぶたはお友達なんだっつーの。
それもこれも、また無断で田中くんの席に座って、何故だか大量のメロンパンをもりもりと食べている小平太のせいだ。
聞くところによると、一学年下の竹谷くんが早朝いけどんバレーボールの犠牲になったらしい。あわれ…竹谷くん。

そんな朝早い小平太に合わせて登校した私は、非常に眠いワケですよ。

「小平太…」
「あに?」

メロンパンが口からはみ出したまま小平太が不機嫌そうに返事をする。とりあえず、口の周りを拭いてやると若干機嫌がよろしくなった。

「これ…」

バックの中から取り出したのは、コンビニ袋だ。だって、家に丁度いい袋が無かったからしょうがない。

ガサガサとコンビニ袋をひっくりかえていた小平太の目が輝いた。

「手袋だー!」

クラス中の男子の目線が、私の席というか私と手袋に集まる。
ええ、私、夜なべしましたよ。夜なべして手袋を編むのは母さんじゃないのか。

「あの…ミトンでごめんね」
「ミトン?」
「指が5本に分かれてない手袋のこと」

昨日、ダッシュで手芸屋に駆けこんで安売りの紺色の毛糸で、ざっくざっくとカギ針で編んだミトンの手袋だ。高校生男子に似つかわしくないこと、この上ないし、オマケに白いポンポンまでつけてやった。

「幸が編んでくれたんだろ。ありがとな!彼女の手編みは男のろまんだ!」
「うん…」

周りの男子の生温かい視線がうざいことこの上ない。しかも「ミトン…」「紐つき…」「レジ袋」とか、ほっとけ。

「ん、この紐はなんだ」
「ああ、それ。その紐はコートの袖に通して」

あれですよ、あれ。よく子供が手袋失くさないように、ついてる紐。これなら小平太も手袋失くさないし、あわよくばコートも着てくれるだろう。

「おおおお、すげー!手袋落ちない!」

マジ感動かよ。

「まあ、そんなに喜んでくれると編んだかいもあるよ」
「うん、これだったらコート着るし、もう一個の男のろまんもできるな」
「何それ」
「幸の手が冷たくなったら、コートのポッケに入れてあげられるだろう!」

そうして、小平太は、にかっと笑って私の手を取ったのである。
私の方は手袋もいらない程、暑くなってクラスの男子は浪漫!浪漫!と無駄に騒いでいた。

そして、中在家と目が合って、ぐっじょぶと親指を立てられた。

「あの…小平太」
「ん、なんだ」
「それはね…乙女の浪漫でもあるんだよ」



浪漫と毛糸の関係性について



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