7.




「ねえ、伊作クン。私と一緒に行こうよ…そうすれば君は苦しみから逃れられるよ」
「雑渡…さん?」

うつら、うつらとしながら伊作は熱を確かめるように額に手を置いて、顔を覗きこんでくる雑渡の顔を見ていた。

「働いて、学校行ってさ。ネ、辛いでしょ?私と行けばそんな苦しみは無くなるよ」
「でも、僕は…僕は」

苦しさから瞳の端に涙がにじむ。
目を閉じれば、何故か留三郎の顔が思い出された。
不思議と留三郎のことを考えれば安心することができた。

初めて逢った時からそうだった。
なんだか、安心できて、あったかくって、懐かしくって、こいつとは一生側に居たいと思うような。
そんな、不思議な気持ちだった。

なのに、留三郎に酷いことを言ってしまった気がする。

額を押える手はとても冷たいけれど、囁かれる言葉はとても甘い言葉だけれど。

今、留三郎に逢いたい。

「と、めさぶろ…」
「伊作ーっ!!」

信じられないモノを見た気がする。
伊作の住んでいるアパートは築ン十年のおんぼろ木造アパートだ。
当然、窓なんかも小さいもので明らかに人が出入りしようとしたら、つっかえるのに決まっているのに。

「えええええ」
「伊作、大丈夫か!?」
「ちょ、留さん。君、今どこから出てきたのって、窓!?窓だよね」

当たり前のように、その小さな窓から入って来た留三郎に伊作は目を丸くした。

「窓ぐらい自由に入れるに決まってんだろ。サンタクロースなんだから」
「はあ?」
「それより、アンタだよアンタ!この死神!伊作から離れろ!!」

留三郎が指さすと雑渡はヤレヤレと首をすくめた。

「あーあ、サンタクロース君が来ちゃったか。まあ、まだトナカイも居ないサンたまなんでしょ?」
「アンタ、俺のことを知って…!やっぱり死神か!?」
「え、ちょっと留さん、サンタだとか死神だとか何の事?」

伊作は目の前の展開に着いていけなくて留三郎と雑渡を交互に見る。

「前に言っただろ、俺が本物のサンタクロースだったらどうするって。あとな、そこのソイツはお前を連れて行こうとしている死神だ」
「ええっ、そんなワケないじゃん」
「死神死神って、オジサン傷ついちゃうなー。ただ、お仕事をしに来たついでに伊作クンを勧誘してるだけなのに」
「勧誘って、アンタ伊作を死神にするつもりなのか」

留三郎が状況を飲みこめない伊作と、雑渡の間に入って背後に伊作を庇う。

「やれやれ、これだから最近の若いサンタは。オジサンね、死神じゃないの……ほら、そろそろ時間じゃない」

雑渡が黒い上着の懐から懐中時計を取り出してみせた。
23時59分30秒…40秒…50秒…。
秒針が12に重なった時、とてもその懐中時計から鳴っているとは思えないほど大きな鐘の音が鳴り響いた。

「クリスマスイブだ……」
「そう、古来よりね、イブにはクリスマスの精霊が現れるって決まっているんだよ。先ずは、過去のクリスマスの精霊がね」

雑渡がその、黒い上着を脱ぐと辺りが目も開けられないほど眩しい光に包まれた。





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