4.




これで三度目。
留三郎はサンタの家で机に向かいながらニヤニヤしたり、悩んだりを繰り返して小人たちに遠巻きに見られていた。
手元には製作したぬいぐるみがうず高く積まれているのだから、タチが悪い。

「……留三郎」
「長次」

静かに声を掛けてきたのは同期の長次だった。穏やかな性格の彼は、温かい紅茶を差し出しながら留三郎の隣りに座った。

「……どうした」
「どうしたって、何だよ」
「……悩みがあるように見えた」

紅茶のカップに映る自分の顔と対面しながら留三郎は考えた。
長次にはすでに、小平太というトナカイが居る。悩みを打ち明けても悪いようにはなるまい。

「あのよ、お前どうやって小平太にトナカイになってくれって頼んだんだ?」

問題はそれだった。
あれから留三郎と伊作の仲は順調すぎると言ってもいい程順調に進んでいた。
留三郎が伊作のボランティアを手伝いに行ったり、その逆もあり、時には伊作の家まで留三郎が夕食を作りに行ったりして、まるで昔からの友人のように二人は見えた。

だからこそ言えないのだ。
『俺のトナカイになってくれ』何て言ったら、恐らく大抵の人間はこいつ大丈夫だろうかと思うだろう。
トナカイになり得る人間は、サンタクロースを信じているという前提があったとしても。

「……小平太は、ああいう性格だから」
「ああ」
「……トナカイになってくれと言ったら、ひとこと「いいぞ!」と」
「だよなぁ……」

小平太ならば間違いなくそう言いそうだ。伊作ならば、前置きなく告げたなら検温を始めるに違いない。

「俺もな、アイツこそが俺のトナカイだと思うんだよ。何か、伊作と一緒に居ると懐かしい感じがするっていうか、あったかいっていうか、俺が面倒見てやらなきゃなっていうか…」
「……恋か」
「ばっ!」

耳まで赤くなって、長次に思いっきり手を振る。

「そんなんじゃねえよ」
「……それほどまでに一緒に居たいのだろう」
「そりゃそうだけどよ」
「……だったら、一緒に居たいと思う相手を信じてやることだ。きっと、応えてくれる」

長次の真剣な口調に、留三郎も頷いた。

「ああ……」


・・・


スポーツドリンクに、ゼリー、卵に小葱と色々をスーパーの袋に詰めて留三郎は伊作の家である、ボロアパートを訪れた。

最初は、ボランティア先の病院を訪ねたのだが、子供たちにまとわりつかれながら「伊作にーちゃん風邪ひきで休み!」と言われて、急きょ色々用意したのだ。

「おーい、伊作!生きてるかー」
「留さん?」

玄関先に現れた伊作は、どてらにマスクと赤い顔で完全なる病人だった。

「ああ、いいからいいから布団に戻れって」

伊作は留三郎の手によって薄っぺらい布団に戻されて、魔法のようにスーパーの袋からアレやコレやと、おでこにヒエピタを貼られたりスポーツドリンクを差し出されたりしていた。

「留さん、どうして僕が」
「ああ、お前んとこのチビが教えてくれたんだよ。ああ、いいから起き上がるな。卵雑炊作るから、食えるか?その前に着替えるか?」

かいがいしく世話を焼く留三郎に、最初は伊作も戸惑っていたが、心地良い状態にされると、ふ、と息を吐いた。

「なんか留さん慣れてるね」
「ああ、うちチビが多いからな」
「兄弟多いの?」
「兄弟っつーか、何て言うかうち親が居ないんだけどよ。施設のガキどもって言うの?」

人間界で、自分の家族について説明する時に使っている文句をそのまま言う。

(あれっ、ていうかこれサンタについて説明するのにいい状況なんじゃねえの)

卵を片手に留三郎は振り向いた。

「あ、あのよ伊作」
「留さんも、僕と似た感じなんだね…」
「え?」

熱のために頬を赤くして、枕に頭を預けながら伊作がぼうっと言う。

「僕も両親が居ないんだ。だから色々バイトとかしなきゃいけなくて…」
「そっか……」

その瞳に宿った悲しげな表情に、留三郎は言葉を引っ込めた。
何も今言わなくてもいい。クリスマスまでにはまだ時間がある。

「何か不思議だね、普段だったら心細いのに留さんと一緒だとほっとする」
「そ、そうかよ」

危うく卵を握りつぶしそうになったので、留三郎は狭い台所に逃げ込むことにした。
その前に、あ、と気付いてポケットから小さい松ぼっくりで作ったクリスマスツリーを取り出した。

「これ、俺が作ったんだけどよ。この部屋殺風景だから置いとくぜ」

小さなビーズのついた、素朴なツリー。それを置くか置かないかの瞬間に、硬い声で伊作が止めた。

「ごめん、それ片付けてくれないか」
「え?」
「僕、クリスマスって嫌いなんだ」





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -