「……ッ!!ナーシャ!!」


彼女の苦しむ声、クルーの慌てた声に反応し、振り返った時には……不覚にも怪異の騎士の接近を許し、ナーシャは亡霊に首を掴まれ持ち上げられていた。殆ど反射的に彼女に腕を伸ばしたがナーシャの身体は既に城の外にあった。見開かれた色違いの瞳がおれを映したのはほんの僅かな間……彼女は霧深い島へと落ちていく。怪異の騎士にかまけている余裕が一気に霧散し、割れた窓辺へと駆け彼女が落ちた先を見据えるが……やはり濃い霧に阻まれ、ナーシャの行方は目視出来ない。

「…………っ」

またおれは、彼女を守り切れなかったのかと、己の不甲斐なさに奥歯を噛み締めた。その怒りを以って傍らの騎士に、指先の釘を向けようと腕を振るった瞬間


──カラン、コロン


余りにもこの状況に不釣り合いな音に気を取られ、腕を止めてしまう。音のする方へ眼をやると、其処には……先程ナーシャの好きにしていい、と預けたオルゴールが床に転がっていた。彼女が投げ出され、落とした際に蓋が開いたのか、頭の無い人形が小箱の中でゆっくりと回っていた。


──ドサッ


再びの不意の音に目をやる方を変えると、先程まで何やら憤った様子で暴れていた怪異の騎士が、力無く両膝を突き、震える手でその小箱を拾い上げていた。本当に力無く、まるで硝子細工に触れるかのような繊細な手付き……あまりの豹変ぶりに、おれも纏っていた藁を仕舞う。言葉は無くともコイツには追撃の意志は無いと、分かってしまった。

──ならば、今のうちに止めを刺すか?

携えていた刀に手を掛ける。ウチの船員を傷付けたコイツを、許してやる訳にはいかないと、柄を握ろうとした、が

「船長!コイツなら俺達に任せてください!」

船長は早く、アイツを
怒りに飲まれ、判断を誤りそうだったおれを引き戻したのは、他ならぬおれの船員達。彼らの言葉通り、コイツにかまけている暇は無い。傷を負い行方知れずとなったナーシャをこそ、今は……。

「すまない、任せたぞ」

そう言い残し足早に窓辺へ向かう。威勢のいい返事に背を押されながら、割れた窓から外へ飛び降りる。空を切りながら、此処から落ちた方角や高さによるダメージを推測し、おおよその方向を定めた。地面が近くなり、能力を発動。右手を藁に変え落下の衝撃を和らげながら地に降りた。足元を見ても彼女の痕跡は無い。

「ナーシャ、」



呼び掛けてみても返事が帰って来ることは無かった。いやに心臓が脈打つのは、何故だ。





=====

──パキン


「ニャ……!!」
「どうした、ファウスト」
「隊長……ぼく、こないだナーシャに、コレ直してもらったんだ」
「……お前、それ……」



「……アイツの、能力で……直してもらったんだよ、このブレスレット」


ぱらぱらと散る色とりどりの粒が、床を跳ねる。
この光景に船員達は皆、彼女の無事を祈るしかなかった。

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