あたしの怖がりが人一倍抜きん出ていることを理解したのは、一体いつの事だっただろうか。
かつての島で占い屋を営んでいたあの路地裏で既にその命を終えた半透明の彼らと邂逅してからだろうか。特色の無い島だというのに、酒場でのバイトで踊り子のチップとして、紙幣と間違ったのか謎の怨念が籠っていそうな札を投げいれられた時からだろうか。そんな出会いたくも無いおぞましい事件を繰り返し、いつしかあたしは気付いてしまったのだ。

この世には、ヒトならざるモノが居て……そしてあたし自身が、そういうモノを寄せ付けやすい体質である、と。

"霊媒体質"……この単語を知り、まさに自分の事だと当て嵌めたのは、スピリチュアルな世界観についてならなんでもござれのグラッジドルフ号に乗船してからだ。もはやあたしの乗船すら運命のように感じる。ならばその体質をどうにかする方法なども船の中にあるのでは……とも期待したけれど、現実はそこまで甘くは無かった。

ふと、暫く歩き続けた我々一行の行路が自然の物では無い石煉瓦の舗装路に徐々に変化していった。顔を上げれば其処には、ほぼ朽ちかけて建物とはとても呼べない廃墟街があったのだ。船長は僅かにふむ、と呟くと足を止めた。此処で、こんなところで止まってほしくないのだけども。というかあたしの第六感が此処で止まるのはよくないと叫んでいる。

「現在地を確認する。お前達は少し休むといい」
「えっ…、やす、休むの……?」

此処で……?
流石にやばいだろうそうだろうと他のクルーに同意を求めようと振り返ったら、皆それぞれ適当な高さの壁を探して座ったり比較的綺麗な地面に足を投げ出したりとすっかり休憩モードだ。やっぱりこの船の乗組員の感性はおかしい!

「ナーシャ、お前も随分歩いただろう。休息はとっておけ」
「ムリムリムリ、無理です!!こんなコワイ所で休めるかってんですよ!!」
「……そうか?静かで、この鬱屈とした雰囲気は心地良いものだと」
「そんなん船長とこの船のクルーだけですッ!!」

お前もクルーだろう、と言われてあたしはキュッと唇を結んだ。そんなやりとりをしつつ、船長もこの陰鬱な雰囲気漂う廃墟を堪能するように見回して、適当な壁に寄りかかり地図を広げている。心なしか無表情ながらも彼の周りの空気が和らいでいる気がする。どうしてこんな所で和めるというのか。しかしこんな所でひとりぼっちになってたまるか、という心からあたしも彼のすぐ隣に駆け寄った。

「せ、船長、ホント此処、ヤバいですって……!」
「落ち着け、今日死相の出ている者はいない」
「死ななきゃいいってもんじゃないでしょ!死ななくても、此処はホント、ヤバい感じがするんですーっ!」

だからとっとと行きましょうあわよくば帰りましょう、と彼の腕をぐいぐい引っ張るが、210cmはビクともしないどころか視線は地図の上を滑るばかりであたしは眼中にないらしい。

「……何を其処まで怯える必要がある?」

船長にそう問われて、あたしは自分の体質の事を思いだした。
この機会に、打ち明けてみようか。魔術師の異名を持つホーキンス船長ならどうにかこの体質に悩まされないよう導いてくれるかもしれないし、そうでなくとも同情を得て一足先に船に戻らせてくれるかも……いや、自分で考えていて何だけれど、後者はないな。絶対。

「その、あたし……わかるんですよ、そういうの」
「…………霊媒体質か」

かなり抽象的に、しどろもどろしつつの言葉ながら、ほんの少し考えただけでまさしく言い当ててしまう船長。彼の瞳が地図から此方へと向いて、彼の朱殷色の瞳にようやくあたしが映った。

「いつから?」
「えっと……あの島で働き始めてしばらくの事だったから…」

指折り数えながら、だいたい十代後半の頃だったと伝える。すると船長、現在地を確認し終えたのか、地図を折りたたんで懐へ仕舞った。

「成程、興味深いな」
「……はぁ、ありがとうございます…?」

船長の興味を引けたことはなんとなくうれしい。なんとなく。
まぁそれはいいとして、この体質の対処とか思いつきません?



そう言おうとした口は、明らかに尋常じゃない敵意を放つ船長の鋭い視線によって塞がれた。


無論あたしが、此処まで彼の敵意を煽るような事を口走った訳じゃない。彼の視線はあきらかに、あたしの背後に向いている。


「……ナーシャ、誇るといい。その体質は上等な物のようだぞ」


彼は壁から離れ、腰に差した刀をスラリと抜いた。



「……せ、せん、ちょう」

あたしの後ろに、一体なにが。


ギギギギ。あたしは錆びた玩具のように、恐る恐る、振り返った。

其処に、居たのは……




『…………!!』
「ひ……ッ!!」





普通の人なら、其処にあるべきモノ、あって然るべきモノ

"頭"を失った、鎧を纏った大男が。

まるで騎士の様な姿の彼は、通常の馬より遥かに大きい黒馬に跨り

剣を此方へ、向けた。

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