修行のあとは



「イテテ……ホーキンスせんちょってばホンット容赦ないなぁ…」


日も暮れて、船に戻ってきたあたしは、今日も今日とて厳しい修行を乗り越えた
今は自室のベッドに腰掛け、身体中に出来た小さな傷を濡れタオルで拭っている
これは船長の藁の腕で絞められた傷。こっちは指の釘にやられた傷。もう少し手加減してくれてもいいんじゃないかなーなんて思ったりもしたけれど、先日その旨を伝えたら甘えるなと一蹴されてしまった。ちなみにその日は気を失う程に厳しい修行になったため、二度と言うまいと心に決めている

だいぶ船長の猛攻も避けられるようになったはいいが、傷は日に日に増えていく

太股にできた大きな傷。覚悟を決めて清めんと濡れタオルを押し当てた


「いッ…!」

染みる。すごく染みる。タオルにもじんわり、塞ぎきれていない血が滲んだ

「っはー…、船医さんの所行こうかな」

そう呟いたと同時に、あたしの自室のドアを叩く音
へいへいどうぞー、とこの恰好のまま返事をすると、現れたのは

「今日は随分だったな」

怪我の調子はどうだ、と小箱を抱えた船長だった

「あはは、いや、まぁ…あたしもまだまだですんで」
「そう忌憚する事は無い。ナーシャも随分戦闘に順応してきている」

船長に褒められて、かなり気分がイイ
ぽっ、と頬を染めてしまいそうだ
船長はあたしの隣に座り、膝の上に小箱を乗せ、それを開いた

「船長、それは…?」
「おれが調合した薬だ。多少の擦り傷なら、すぐに効く」

中には色とりどりの小瓶。あたしの部屋の備え付けの棚(封鎖済み)にあるような、美しい色硝子の小瓶が詰まっていた
"魔術師"バジル・ホーキンスお手製の薬ともあらば、それはそれは大層効果のあるものだろう
船長は箱の中を吟味し、淡い緑の小瓶を手に取った

「……痛むか?」
「えっ、まぁ…」

船長の視線が、あたしの太股の、一際大きな傷に向けられていた
あたしの返答にそうか、と返すと手中の小瓶の蓋を取る。そして


──それを、容赦なく、ひっくり返した
───あたしの、太股に

色んな薬草が混ざった匂いが、あたしの目の前を通る
そしてその次に到来したのは




とんでもない、激痛





「ッッい゛だあぁぁぁぁぁい!!!?」
「…あぁ、すまん。染みるぞ」

事後報告にもほどがある!
痛みに悶絶し、ベッドの上をゴロゴロと転がる。往復するうちに何度か船長にぶつかった。でもそれどころじゃない

「ヒィーッ!ヒィーッ!」
「…………フ」

笑いやがった
この人あたしがもだえ苦しむ様に愉悦を覚えていやがる
ちくしょう。傷をつけたのも船長。傷口に塩…もとい薬をぶっかけたのも船長。この恨み忘れません、と涙目で睨みつける
しかし船長、相も変わらずあたしの行動は意に介さず、ようやく動きを止めたあたしの片脚を持ち上げる。急に触れられてビックリドッキリだけれど、ジンジン染みる傷口がドキドキの余裕をくれない。いたい
船長は傍らの小箱にまた手を伸ばすと、中から包帯らしきものを取り出した。ただの包帯ではなく、なにか…謎の呪文のようなものが描かれている。持ち上げた片脚…未だ痛みの引かない傷に禍々しい包帯を当てると、手慣れた手つきでそれを巻いていく

「…よし。夕食後には跡形もなく傷は癒えている筈だ。まだ残るようなら声を掛けてくれ」

船長…ありがとうございます
本来ならそう言いたかったけれど、今のあたしは濁音の呻き声を上げる事しか出来ない。こんなに痛い処置なら、例え一生ものの傷が残ろうと、船長には頼りたくない
船長は出したものを小箱にしまうと、ドアの方へと向かった


「嗚呼、それと…今日はよく頑張ったな」



部屋を出る際、思い出した様に出てきたその言葉は、傷口に染みる痛みを吹き飛ばすほどの、なによりの癒しとなった




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