枯草と水晶 | ナノ
───おれの船に乗れ
頭の中に反芻する言葉を、理解する前に、あたしの口が開いた
「な、なんであたしのこと、追いかけるの…?」
嗚呼、なんて馬鹿な事。口答えされたとして、今にもこの首を跳ねられてしまうんじゃないだろうか。いや、だったら自分の疑問くらい晴らしたい。冥土の土産だチクショウ
「…おれは占いを信じている。占いで『水晶玉を持った女』が、おれの運命を大きく変えるそうだ…。それが吉と出るか凶と出るかは判らない…が、おれの運命を変えるほどの事ならば、その女を傍に置いておきたいと思った」
死の覚悟を決めたあたしの質問に、気を害する様子も無く男は淡々と答えていく。あたしの知りたい情報おおよそ答えてくれた。あたしの覚悟を返してほしい
「ち、ちなみに、あたしの意志…とかは…」
「おれは海賊だ。欲したものは手に入れる」
つまり答えはNOと言う訳だ。あたしの危機的状況は変わらない
すると、あたしの手中に納まっていた水晶玉が、きらりと光った
この輝きは彼らにも気付かれただろうか。特に変化は無い様子だ。ならば…
───命がけの大脱走、演じてやろうじゃないか
「その、海賊、さん?船長さん?」
「…ホーキンスだ」
「そう…ホーキンスさん、が、占った…んだよね?そのカードで」
「そうだ」
彼との会話の内、水晶玉をきゅっ、と抱きかかえる
「それじゃあ一つ見落としがあったみたい」
何?訝しむ彼の声を遮る様に、あたしは抱えていた水晶玉を、真上に放り投げた
「『水晶玉の女』は、海賊になる気なんてサラサラ無いってさ!!」
あたしのスタスタの実の能力で、宙に放り投げた水晶玉を、増やす
一つだったものが、瞬く間に10、20とその数を増やし
ひゅん、と振り下げたあたしの手を号令に、奴らの頭上に振りそそぐ
驚き声を上げる屈強な男たち。慌てて己の頭を守ろうとする
ただ、ホーキンスとかいう男は確かに水晶玉の急襲に反応したように見えたが、声一つ上げる事は無かった
ただ、奴等の事なんて気にしている場合じゃない
オリジナルの水晶玉ちゃんを傍らに浮かせ、彼らに背を向け、走る。只走る
「あたしは!ゼッタイ!海賊なんかならないんだからあぁぁ!!」
この遠吠えは、はたして彼らに、ホーキンスに届いただろうか
知る由も無く、あたしは細い路地に逃げ込む
いじわるな神様に、彼らをよこさないよう祈りながら
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