枯草と水晶 | ナノ

時が、止まる
彼の言う事からして、海賊の一味なのは間違いないだろう
…というか、なんというか、この男の風格は抜きん出ている気がする
実際、彼の周りの男たちも、彼から一歩引いた様に立ち位置が纏まっている

そういえばこの男、何処かで見た事あるような…
記憶を遡るまでもなく、思い出したのはついさっきの光景

コルクボードに貼られていた、億越えの賞金首、だ


つまり、いちばんあぶなくて、いちばん、コワイ人

カシャカシャカシャ、チーン!とあたしの頭の中で計算式が成り立った
着地時の蹲った体制を、己の身軽さを利用して飛躍。体制を整える
あたしが動いた途端、茫然と彼の周りに控えていた男たちも弾かれたように各々の武器を取り、あたしを取り囲もうとする、が

「やめろ」

彼の、その短いたった一言で、一同がまるで石になったように固まった。ついでにあたしも固まった。このひとコワイ。
あたしまでこうして固まっていると、男はゆっくり立ち上がった
すらりとしているが、そのさらけ出している身体は十二分に引き締まっていて、余分な物が一切ない
立ち上がっても結構な身長差があり、見下されるその眼に威圧的な覇気を勝手に捕えてしまう。蛇に睨まれた蛙。まさにその状況だ

「お前、名はなんと言う」
「……あ、あた、し、は…」

かちかちと、歯が小刻みに震え、鳴る。その所為で男の問いになかなか答えられない

「…あたしは、ナーシャ…」
「………ナーシャ」

男はぽつりとあたしの名を繰り返すと、懐から、タロットカードを取り出した
ピッ、と山札の一番上のカードを取り、まじまじと見つめる。いや突然なにしてんだこの人
…この隙に、逃げられるだろうか。逃げられそうな道が無いかと後ろを振り返ろうとしたら、黒服の中に唯一映える赤いジャケットの大男が懐の剣に手を伸ばした。うん、あきらめよう!
その僅かなやりとりの内に、ようやく金髪の男が口を開いた

「…お前が、カードの予言の女である確率…97%」

カードに向けていた視線が、再びあたしを真っ直ぐ見据える
そして、控えていたのは、悪魔の宣告


「おれの船に乗れ」


ねぇ、神様
あたしの前世は大罪人か何かだったのですか






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