枯草と水晶 | ナノ
ふわふわと浮かぶ相棒の水晶玉は、陽の光をさらに輝かせる
うっかり目に入れてしまい、顔を顰めた
こんなドジ踏んでしまうのだから、もしかしたらあたしの今日の運勢は悪いのかもしれない
…よくよく水晶玉を覗き見ると、本当に、暗雲が蠢いているような気がする
「……アハッ、懐かしいなぁ」
つい笑みが零れた
あたしが海賊に引き入れられたあの日も、こんな風に
水晶玉越しの暗雲のビジョン、視えたのは此方へ真っ直ぐ向かってくる敵船
甲板で風を受けながら、柵に腰掛けぼんやりスクライングに勤しんでいたあたしは
「ホーキンス船長ー!」
彼の元へと、駆けだした
我等がグラッジドルフ号の船長、バジル・ホーキンスの元に
「船長船長船長!」
「どうした騒がしい」
「もしかしたら敵に出会っちゃうかも!海賊旗が視えたんです!」
あたしがそう言うと、僅かに彼の額に皺が寄った
「そうか…今日は殺生すると運気が落ちるのだが」
彼は海図に向かうのをやめ、ゆっくり立ち上がる
海図と共にテーブルに広がっていたカードを一枚捲る。やはり…という小さい呟きが聞こえた。どうやら殺生は本当によろしくないようだ
「交戦の用意を整えておけ。その後皆をおれの元へ集合させるように」
「了解、船長!」
あたしは敬礼し、船長室を後にした
「はいはい皆ー!戦いの用意ー!!」
「あぁ?船なんざ見えねェが」
あたしの声を聞いた特攻隊長が、訝しんで船室の窓に向かった
「あたしが視たの!船長命令ですよー、用意用意!」
「……なるほどなァ、いよぉし!野郎ども準備だ準備!!」
隊長も声を張り上げ、クルーの皆を扇動する
皆も応と声を張り上げそれぞれの持ち場についた
「皆用意終わったら船長の元へ!おはなしがあるそうでーす!」
慌ただしくなった船に、あたしは付けくわえて叫ぶ
おうよ!という返事があちこちから聞こえた。伝達は問題無さそうだ
あたしも駆け足で、グラッジドルフ号の戦闘用意に加わった
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「皆、準備ご苦労。ナーシャの占いにより、敵との邂逅の確率が高いことが分かった」
あたしの名を出した際、ちらりと此方に目をやられてつい、へへへ、と頬が緩んだ
船長は甲板に集ったクルー達を前に、いつもの調子で言葉を発する
「しかし今日、殺生は運気を大きく下げる…。交戦は避けられないとしても、命を奪う事は禁ずる」
以上だ。各自備えは万全に
船長がそう締めると、皆が声を揃えて返事を。あたしもはい!と声を上げた
「ナーシャ」
「はい、せんちょ!」
手招きされ、彼の元へ
「お前の占いにも磨きがかかったな。教えた此方も誇らしく思う」
「………船長どうしたんですか急に。褒めると運気が上がるんですか」
「おれは元々思った事は口にするタイプだ」
ぽん、と彼の大きな手があたしの頭に乗った
なんだか今にも、飛びあがってしまいそうだ
「……っへへ」
「…まぁ、戦闘の知識を上手く扱えるかは、これから見定めさせて貰おう」
彼の言葉と指さした方向を見て、緩みきったあたしの頬が強張った
ふわりと浮かぶ水晶玉越しに見えた海賊旗が、すぐ其処に
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