枯草と水晶 | ナノ



存外船長は行動派らしく、とんでもないショッキングな場面に出くわしそうになった
なんとかあたしは言葉での説明を求め



───今に、至る



「……命のストックって、そういうこと」
「そうだ」


船長の淡々とした説明を聞いて、背筋がぞわりとした
億越えの賞金首として名を挙げているのも、よくわかる
彼は、無数の屍の上に、生きているのだ
自分で作り上げたであろう屍と、彼の傷を請け負った屍の上に

先程まであんなに騒がしくしていたのに、急に、空気が重くなる

「あの、船長」
「…なんだ」
「あたしも、藁人形にするんです、か…?」

途切れ途切れの言葉が、恐怖に支配されきったあたしを物語っている
クルーとして、グラッジドルフ号に乗せられた者として
あたしにも、その役目を、与えられるのだろうか
岩にその身の殆どを隠しながら、恐る恐る問う



「………?お前は何を言っているんだ」


ずいぶんと怪訝な表情で首を傾げる船長に、強張っていた空気が霧散した

「誤解しているようだが…おれはクルーを誰一人として身代わりにしていないぞ」
「えっ……」
「大切な仲間だ。身代わりになどするものか」

勿論、ナーシャ、お前もだ

その言葉と真っ直ぐな視線に唖然とした
酷く残酷な力だと、勝手に恐怖を抱いていたけれど、その言葉で気持ちが晴れていく


朱殷色の、真っ直ぐな瞳
あたしを海賊にした、決意の瞳
それはまるで毒のようで、見つめられると胸が苦しくなる


「───っ、ホーキンス船長!」
「…今度は何だ」
「あたし、船長になら身代わりにされてもいいです!」

岩陰から飛び出して、彼の眼の前に立ち言い放った
彼の薄い表情が、目に見えて驚きの色を映す

「……お前は、よくわからん奴だ」

ぽふ。あたしの頭に船長の手が乗った
そのままぽんぽん、と撫でられる

「おれは船長だ。クルーを守るのも、船長としての役目…。だから、気持ちだけ受け取っておく」



彼は僅かに目を細め、笑んだ
真正面で表情の違いを見ていたあたしにしかわからないだろうけど
本当に、優しい笑みだった





「ところで船長、今いるストックって一体誰のなんです…?」
「……………。」
「船長?」
「……………。」
「船長ッ!?」




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