枯草と水晶 | ナノ
船に揺られて、もう一時間は立っただろうか
新入りのあたしは、隊長に運んでもらった荷物を部屋に収納し、船の設備を案内してもらい、今はその船の中を奔走している
「ナーシャー!アレ持って来てくれー!」
「はいはーい!!」
「新入りー、次こっちなー」
「はいはいすぐにー!!」
新入りだからこそ、覚える事はとても多く、今にも目を回してしまいそうだ
いや、目なんか回していられない。いつ役立たずと切り捨てられるかもわからないのだから
ただ有り難い事に、お酒の回る場所で働いていた経験が生きたのか、案外船員さん達と打ち解けるのは早かった。なんか、カルト教団みたいな揃いのローブ着てるような人たちだから、時間がかかるのを覚悟していたのだが
ちゃんと関わってみると、みな海の男、というのが根底にある感じだ
わずかに息をつく暇があり、壁際にもたれ掛ってふう、と汗を拭った
スッ、とあたしの目の前にふわふわの手が、コップを差し出した
「やぁナーシャ、お疲れさん」
「あっ!猫さん!」
実のところ、一目見た時から気になっていた
何といっただろうか、獣人族の
「ぼくはファウスト。猫のミンクだニャ」
「あーそうそう、ミンク族だ!よろしく!」
彼からコップを受け取る。中には甘い香りを漂わせる赤い液体が
「ただのぶどうジュースだよ。酒は宴まで我慢ニャ」
「わぁ、ありがとうございますパイセン!」
パイセン…そう繰り返した彼の尻尾がゆらり、機嫌がよさそうに揺れた
彼からの一献を有り難く頂戴する。冷たくて、走り回って上がった熱がいい感じに抜けていく。ぶどうの甘さも、疲れをほぐしてくれるようだ
「パイセンはくすぐったいから、ファウストでいいよ。それと新入りだからって、クルーに敬語なんか使わニャくていい」
「へ?」
「敬うのは船長だけだニャ。ぼく達、仲間なんだからさ」
……仲間、そう呼ばれるのは、なんだか良いなあ
ついつい、頬が緩んでしまった
「あたし、ファウストとは仲良くなれそうだなぁ」
「へへへ、ぼくもそう思う」
「おうナーシャ、お前の部屋の惨状ホーキンス船長に全部伝えたのファウストだぞ」
「キサマかーーーッ!!」
「うわあああヒゲは!ヒゲはやめろニャーーー!!」
「ところで、宴って?」
「…あ、口が滑ったニャ…」
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