枯草と水晶 | ナノ


一通り買い物を終え、日が傾く前に船に戻る事ができた
船に乗り込む時、すこし不思議な気持ちになる
だって、今日からあたしは、此処に帰ってくるのが当然になるのだから

コワイコワイと思っていた海賊に、なるのだから



甲板では、ホーキンス船長が椅子に座り、宙にカードを浮かせてタロットに興じている
…カードを…浮かせて…


「カードが浮いてる〜〜〜!!?」
「いや、お前の水晶玉だって浮いてンだろ!?」
「あぁ、帰ったのか」

騒ぎ立てるあたしたちはさておき
平然とした様子でおかえり、と船長はカードを懐に仕舞った
と、思いきや、じっと見つめられる

「え…?なに…あたしなんかした…?」
「……いや、ソイツを荷物持ちにするとは」

ソイツ、つまり隊長さんは「いや、違うんです流れで!」と必死に弁明を挟むが、船長は存外豪胆な女なんだな、とわずかに表情を和らげた


…能面かと思ったけれど、そんな、ふわ、ってする顔も出来るんだ


つい、ぼうっと見続けてしまっていると、わずかに彼が首を傾げたので慌てて浮ついた意識を取り戻す

「あっ…、そ、そうだ!コレ、返しますね!」
「なんだ、使わなかったのか?」

彼の掌に収めたのは、先程頂いたお小遣い
使った形跡が無いのを不思議がっている

「あぁ、そのー…一旦荷物取りに行ったんです。服とかは元々あったのを持って来たんで、新しいのは買ってないです」

買ったのは生活必需品を少々。自分の蓄えで十分間に合ったので、彼から頂いたお金には手を付けなかったのだ
船長はそうか、とだけ言うと、帰ってきたお金を仕舞い、ゆっくり立ち上がり、船員達に向き直った



「錨を上げろ、出航する」



彼の宣言に、船員達は意気盛んに応と答える。彼らの覇気がピリピリと肌に響く
彼らは各々の仕事に、圧巻してしまうようなてきぱきと無駄の無い動きで抜錨に取り掛かっている


───いよいよ、あたしも海に出るんだ


きゅっ、と服の裾を握りしめる
傍らに浮いた水晶玉が、大丈夫、未来は明るいよと、予言した気がする




「…で、俺ァいつまで荷物持ちしてりゃあいいんだ」



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