枯草と水晶 | ナノ
「約束通り、此処がお前の個室だ」
船長に案内された部屋を見て言葉を失った
藁で出来た意匠の多いこの船、グラッジドルフ号の中は、存外に広い
船の中は照明、雰囲気共に薄暗く感じたけれど、あたしの個室となるこの部屋は雰囲気が一変、エキゾチックで美しい家具が揃っている
「お、おぉ、お…!!」
「…お気に召したか?」
「いやいやいや、こんな…豪華な部屋いきなり貰っちゃっていいんですか」
「ちょうど使っていない部屋だったからな」
ベッドはふかふかで広々。枕が一個じゃない!
壁も床もすきまなんて無く、酒場特有のにおいも全然しない!
むしろいい匂いすら漂っている。備え付けの棚の中に綺麗な小瓶が並んでいたけど、香水か何かだろうか。ひとつ手に取ってみるとしよう
「……あぁ、その棚の中の瓶には触れない方がいい」
思い出した様に続ける船長
あたしの手中にはすでに、淡い輝きを放つ水色の小瓶が
「皆、毒薬だからな」
けろりと言い放つ船長。ちなみにソレは飲めば全身から血が噴き出す、と追撃を喰らった
「………せんちょ」
「何だ」
「…………あたしの事毒殺しようとかしてます?」
「いや?」
「ソウデスカ……」
だめだこの人わけわかんない。能面みたいな表情が一切変わらない
そしてほんのわずかも悪びれる様子が見えない。なんなんだこの人
あたしはそっと、手中の瓶を棚に戻した。後で厳重に封をしておこう
「じきにこの島を出るが…足りない物はあるか?」
「えっ…とー……」
軽く見回してみる。そういえば今のあたしには、占い師っぽさを演出するため纏ってる服と相棒の水晶玉ちゃんしかないのだった
「強いていえば服…かな?それくらいだと思います」
「そうか、なら…」
船長は服の内側をまさぐった
すると非常に良い音を立てた小袋を取りだし、あたしに渡した
ずっしりとした重み…かなりの量が入っている、これは
「好きに買い揃えてくると良い」
女の必要な物などわからんからな…と
ホーキンス船長はあたしに、節約すれば暫く生きていけそうなほどのベリー袋を渡したのだ
「え、え、こんなに!?」
「……驚くほどの量か?」
むしろ不思議がられた。あたしってそんなに貧しい生活してたのかな
それとも海賊って、こんなお金をすぐポンと渡せるほど、裕福なのだろうか
ともかくあたしは、頂いた小袋を大事に握りしめ
再び、島へと戻っていった
「………これ、あわよくば逃げられたり」
なんて、ね
街に向かいながら呟いたソレを
「……………。」
聞かれていたとも知らずに
「あれ、隊長は?」
「あー…新入りの監視だってよ」
「なんだよー、たんこぶが痛むって言うから氷嚢持って来てやったのにニャア」
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