枯草と水晶 | ナノ


カモメがくうくう鳴いている
木製の床の上に、彼らが飛び回る影が映っている。広い青空を、悠々と飛んでいるのだろうか


「予言に従い、この女を新たな船員として迎える」


嗚呼、呑気に鳥の事なんか気にしている場合じゃなかった


「ナーシャです、よろしくお願いします」

挨拶するときは顔を見る、当然の事だ。この不慣れな状況で俯き加減だったあたしは"船長"に促され、わずかに顔を上げて、目の前の彼らを見た。けれどすぐに頭を下げ、出来る限り下げ、視界から彼らをシャットアウトする。だってメッチャ睨まれてるんだもの。コワイ。
そりゃそうだ。今しがたあたしは目くらまし目的とは言えど彼らの頭上に大量の水晶玉を落とした張本人なんだから
黒衣で纏まっている船員さんの中で特に目立つ、赤いジャケットの三つ編みの大男さんなんかは、広めの額に大きくたんこぶが出来ている。運が無かったねお兄さん、とはとてもじゃないが言えない
ゆっくり、ゆっくり、刺激しないように顔を上げ、つつつ…と船長さんの後ろに隠れる。熊の対処法を思い出した

「船長、その子船員…なんですか?奴隷とか、生贄とかじゃなく?」

なんて物騒な事をいうんだこの猫は
ん?猫?

「…ああ、ファウストは見ていなかったか。コイツは能力者だ」

彼の一言に、一部の船員達がざわついた
そういえば先程より船員さん達の人数が増えている。もともと船に残っていたり、別の所であたしの捜索にあたっていた人たちだろうか…だなんて呑気に分析している場合じゃなかった

「えっ、いやでもっ、マトモに扱えてる訳じゃないっていうか!あたしも何が出来るかよくわからないっていうか!!」

慌てて付け加える。能力者ゆえに前線に立たされたらたまったもんじゃない
実際、自分の能力で人を傷付けたことなど無い…と思ったが、赤ジャケットの彼のたんこぶが目に入ったので前言撤回する。心の中で


「…はじめから全てを理解している者などいない」

向きは変えずにそう言った船長さんは、後ろに隠れていたあたしにゆっくり向き直る

「わからない、とは言うが…それなりに扱えているように見える。お前が自分の能力を理解したい、と思うのなら…協力する」


さっきまで、彼が蛇で、あたしが蛙だったというのに
恐怖の対象だった視線が、まっすぐあたしを射抜いているのに

ちょっぴりドキっとした
恐怖のドキ、とはきっと違う

…もしかして、意外といい人なのでは?





戻る


- ナノ -