目の前に差し出された、装飾の綺麗な小箱。
ほんのり甘いカカオの匂いが漂う、これは…チョコレートだろうか。
小箱を差し出す本人、ホーキンス船長にそう問うと、彼はコクリと頷いた。
突然のプレゼントに舞い上がる心地、早速頂こうと手を伸ばすと、ひょい、小箱は上へ、あたしの手の届かぬところへ。
何の意地悪か、と問い詰める前に、彼が口を開く。

「ゲームをしよう。この中に一つだけ…媚薬入りのチョコレートが入っている」

余所から取り寄せたものなので公平だと言ってのける船長。無論そんな言葉信じられるはずも無く…。
彼の口車に乗って、ロクな目に会った事が無い。と彼と小箱を交互に訝しんでいると
伸ばしたまま固まったあたしの腕につう、と船長の白く、長い指が滑り

彼の、朱殷色の瞳が、挑発的に此方を見つめるものだから、あたしは…

「…いいですよ、運試しといきましょ」
「決まりだな」


===

互いに一つ一つ、ちょっぴりほろにがいチョコレートをつまんで行くけれど、変化は訪れなくて

ついに小箱には、最後の一粒

そして、回ってきたのは……




───ホーキンス船長の、番だった


「…そうか、今日はお前に天運が巡っているらしいな」

潔くその一粒をつまみ上げ、口へ運ぶ……

寸前で、止まった。


「…知っているか?ビターチョコには僅かながら媚薬効果があるのだそうだ」

最後の一粒を指先で弄びながら言う彼に、そういう事か、と何処か諦めがちになりつつ受け入れている自分がいるのは、度重なる彼の意地悪に慣れてきたという事だろうか。

ホーキンス船長は気だるげにソファへ移り、最後の一粒を柔く食んだ。
彼の手が、あたしを手招く。

最初っからイカサマじゃん、だなんて毒づいたけれど
結局最後の一粒は、二人で分け合いましたとさ。



「ホント、狡いです、船長」

媚薬の効果か、もうお互い獣の様に貪った後、さっさとシャワーに向かってしまった彼の背に向けて呟いた。

勝負自体はあたしの勝ちだったのだ。だって、二人の口の間で割れたあの一粒は、妙に甘ったるいシロップが垂れてきて……。

つまり、ホーキンス船長の、引き分けに持ち込んだ策略勝ちって訳で。
少々ムカついたので、彼の脱いだシャツを布団代わりに眠ってやろうかとも思ったけれど、倍返しが怖いので、やめた。


【拍手お礼SS ビターチョコゲーム】


ありがとうございます!はげみになります!

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