私の好きなヒト(2/7)
某テレビ局での仕事を終えた俺は、さっさと私服に着替えて帰り支度をしていた。
今日は、朝一番で入っていたこの仕事が終われば後はオフだ。
「なんだ、夏輝。今日はやけに急いでるな。何か予定でもあるのか?」
タバコをくわえながら、秋羅が聞いてくる。
ソファに座って雑誌を眺めていた春も、チラリと俺に視線をよこす。
ちなみに冬馬は収録後、どこへ行ったのかまだ控え室に戻って来ていない。
「ああ。思ってたより早く終わったからさ。後で行こうと思ってた親父んトコ、今から行こうかと思って」
上着を羽織りながら答える。
と、春が片眉をピクッと動かした。
「親父?……………あぁ、あの店の〈例の〉親父か」
嘆息しながら言う。
春がこんな反応をするのは珍しい。
俺は、ほおがゆるむのを自覚しながら言った。
「春は、あの親父のコト苦手だもんな。昔から」
ついからかいたくなった俺の言葉に、これまた珍しく春がムキになったように返してくる。
「苦手なんかじゃない。…………慣れないだけだ」
「ハイハイ。んじゃ、そういう事で。おっ先〜」
春に軽口で返すと、俺は鞄をつかんで駐車場へと駆け出した。
さほど道が混んでいなかったので、春が言うところの〈例の店〉までは順調に車を飛ばした。
お目当ての駐車場にもスンナリと停められて、俺は結構ご機嫌だった。
念のため、変装用の帽子を目深にかぶって店に向かう。
クリスマス一色のイルミネーションで飾られた駅前から細い路地に入ると、見覚えのあるショーウインドーが見えた。
相変わらずこの時期でも、装飾の一つもない事に安心する。
しかし。
店の真ん前まで来た時、ショーウインドーの中の様子が見えて。
俺の足は、そこで止まってしまった。
「…………なんで?」
そこには、思いがけない光景が広がっていた。
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