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ここにいる(1/3)

「秋羅、さん…?」

小さな声で呼びかけても身じろぎしない彼がしっかり寝入っているのを確認して、腕の中を抜け出した。




「う〜…さむ…」

明かりの消えたリビングで秋羅さんを起こしてしまわないように小さなライトだけをつけ、暖房のスイッチをいれる。

「えっと…」

神堂さんからの“宿題”と、台本を広げてにらめっこの時間が今日も始まった。






「ったく…」

部屋を出て行ったのを確認して瞑っていた目をあける。

ベッドから出て小さくリビングに続くドアを開けてみれば、毛布に包まりながら

なにやらブツブツ独り言をいったり書いてみたり。


手を差し出して、甘やかしてやるのは簡単な事だけど、

必死に戦う君の背中も嫌いじゃない。だから。


「頑張れよ…」

俺は、ここにいるから。






「曲、ですか…?」

「…あぁ」

はづきが新ドラマの主役に抜擢されたと聞かされた打ち合わせで、主題歌もはづきに決まったと春が告げた。
そして、その曲を書いてみないかと、春。


「春、はづきちゃん初めての主役ってだけでプレッシャーも相当あるんじゃない?そこに曲までなんて、大丈夫?」

夏輝の言葉に春が頷く。

「そうだな。でも、はづきが決めればいい。…どうする?」

「やります!やらせてください!」


即答したはづきに春が目を細める。


「…そうか。じゃあ決まりだ」

「はい…!」

「無理しなくていいからね?困ったら何でも相談して?…って、はづきちゃんの騎士はちゃんといるから大丈夫か」


意味あり気な夏輝の言葉に、頬を真っ赤にしたはづきがかぶりを振って。


「でも、これは仕事ですから…っ 一人でちゃんとやります!」

「真面目だな〜、はづきちゃんは。でも俺ならいつでもウェルカムだぜっ?」

「と、冬馬さんっ…近いです…///」

「…はいはい シッシッ」


はづきの肩を抱いていた冬馬を引き剥がして救出すると、さりげなく自分の後ろに隠して、冬馬を手で追い払う。


「なんだよ、冗談だろ〜」

「春、ミーティングは終わりだよな?」

「…あぁ」

「じゃ、冗談も終わり。ってことで俺ら帰るわ〜」



キョトンとしているはづきの手を引いてそのまま車に向かった。


「…で、大丈夫?」

車に乗り込んだまま、発進させずにドアに背を向けて向かい合った俺に

はづきの目がキョロキョロと宙をさまよう。


「あ、さっきの…。大丈夫、ちゃんとやれる」

「ドラマもあるんだろ?」

「うん。…けど、チャンスだし。頑張りたいの」

「そっか。…わかった。じゃあ頑張れよ」

頭をポンポンと叩くと、うれしそうにクシャッと崩れるその顔。




本当は、この先キミが

頭を抱えて悩む様子も

ドラマとの両立に苦しむ姿も

寝不足でボロボロの顔を鏡で見ながらため息をついている、そんなことさえ

容易に想像できるけど





俺も、少しは経験してきて知っているから。

誰にでも、がむしゃらに頑張らなくてはいけない時がある。

だから、しばらくは見守ることにしようと、そう決めた。


それに、やり遂げた、満足そうなはづきの顔を見てみたい。
.


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