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今だけ、もう少しだけ(2/3)




「ふっ‥‥くっくっくっ‥‥‥」


やがて堪えきれなくなった半平太さんは、顔を横に向けて笑い出す





「も、もう‥‥半平太さんってば!‥‥‥‥先に行ったみんなが私達が帰るのを待ってるんですよ?」


完全にむくれた私が握った手で軽く叩く真似をすると、やっと笑いを収めた半平太さんの大きな手にその拳ごと包まれてしまった



「そう、そして明日からまた慌ただしい日が続く事になる」


「わ、分かってるんだったら‥‥‥‥っ!」



言いかけた私を、半平太さんは目線だけで制する




「はづき」


「‥‥‥‥っ」




「だから、こうして本当に二人きりでいられるのも、きっと今だけだよ?」


「それ、は‥‥」


目線を合わせたまま、半平太さんは艶然と微笑んでみせた



「仕方のない事ではあるけれど、薩摩にいた時もいつも誰かしらが傍にいて、二人きりになれる事なんて滅多になかったからね」







だから、敢えて遠回りをしてでも、今だけ‥‥‥‥もう少しだけはづきとこうしていたいと思うのは‥‥駄目かな?



耳元で囁かれる半平太さんの言葉を、私は半ばボウッとしながら聞いていた




「‥‥‥半平太さん」


やっとそれだけ言えた私の声がひどく掠れているのに、自分でも驚く


「うん?」




「その質問の仕方、ズルい‥‥です」



私の言葉に、半平太さんが苦笑する



「そうだね」


その呟きと同時にぐいと体を引き寄せられて、私の額に半平太さんの吐息が触れてくる




その優しさに、 私はそっと目を閉じた―







ねえ、お願いだから

『今だけ』だなんて言わないで

互いの心が通じ合ってさえいれば

いつでも貴方と共にあるって信じているから

ねえ、そうでしょう?




―終―


⇒あとがき
.


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