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想い重ねて(1/3)



夕焼けに染まる海岸を二人寄り添って歩いた後



「さ、どうぞ」



入江先生は、緩やかな坂道を登った所に点在する住宅の中の一軒に私を促した



木造二階建てのその家は、建てられてからそれなりの年数は経っているらしいけれど



海の傍に建つ家らしく、潮風に耐えられるようしっかりとした作りになっているのが、素人目にも分かった



「あの、先生?」



腰までの高さの門扉を通り抜け、慣れた様子でポケットから鍵を取り出す入江先生の背中に問い掛ける



「こちらのお宅は、もしかして‥‥」



「ええ、私の実家ですよ」



からり、と引き戸に手を掛けた彼が斜め後ろに立つ私を振り返って、小さく笑った



「と言っても、両親は既に鬼籍に入っていますから、普段は近くに住んでいる親戚に管理をお願いしているんですけどね」



「‥‥そうだったんですか」



家の中にお邪魔すると、ふわりと木の温もりに包まれたような気がした



玄関からまっすぐ奥に伸びた、磨き込まれた板張りの廊下



その脇にある、居間として使われているらしい続きの和室には、先生のご両親が使っていたらしい調度品が並んでいて、どこか懐かしい気持ちになった



「素敵なお宅ですね」



「そうですか? 補修こそしていますが、何処にでもある古い家ですよ?」



言葉通りに受け取ったらしい入江先生の視線の先には、年月を重ねて飴色に光る大黒柱がある



(‥‥そういう意味じゃないんだけどな)



『だってこの家には今でもちゃんと、先生とご家族のぬくもりが残ってるもの』



素直にそう口にしようとして



(でも、勘違いしている入江先生もちょっと可愛いかも?)



一回り近くも年上の入江先生に、そんな感情を持ったのは初めてだったから



「‥‥‥‥」



私は、少しだけ自嘲めいた表情を浮かべる入江先生の腕にそっと手をかけると



「はづき?」



不意をつかれて微かに目を見開いた彼に、にっこり笑って見せた





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