Musician | ナノ


雨がやんだなら‥(1/3)

雨の夜は、キライだ。


今まで生きてきて、最悪だった日の夜はいつも雨が降っていたから。




母さんが仕事から帰る途中で事故に遭った時も、ヒドイ雨だった。


俺は、泣きじゃくる由貴の細い肩を力いっぱい抱きしめ続けるだけで。


そんなコトしか出来ない、自分の無力さを思い知らされたんだ。


それでも、俺と由貴は二人で懸命に生きてきたのにーー。




今度は薫の身勝手な言動が、俺達を傷付けた。


モチロン由貴も、深く深く傷付いていたのに。


なのにアイツは、自分のコトよりもまず俺を気遣ってくれた。


そんな妹の姿を見て、俺はやがて『笑顔』という仮面を被るようになったんだ。


俺は大丈夫だよ。


俺は傷付いてなんかないし、誰とでも適当に上手くやってるんだと由貴に見せ付けるために。


そんな俺のパフォーマンスも、ある時までは完璧だったのにね。


ちとせちゃん、君と出会うまではー。




「ん…………?」


かすかに物音が聞こえた気がして、俺はゆっくりと目を開けた。


目に映るのは、見慣れた俺の部屋。


サイドボードの上のデジタル時計に目をやると、もうすぐ日付が変わろうとしていた。


「………………」


だんだん頭がハッキリしてくる。


そうだ。


俺は仕事が終わって帰宅した後、ちとせちゃんからの電話を待っていたんだっけ。


今日はお互い単独の仕事で会えなかったけど、明日は二人とも午前中オフだから『ちとせちゃんの仕事が終わったら、何時でもいいからデンワしてね』と俺が言い出したのに。


どうやらリビングのソファで音楽雑誌を読んでいるうちに、うたた寝をしてしまったみたいだ。








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